人前で話をするということは、なかなか難しい。
特に、セミナーや講演の講師となると、聴衆や受講者に、何かを伝える使命がある。
生徒がどうあれ全く関知せず、毎日決まりきった授業を黒板と交わすだけの先生、先生とは名ばかりで、コミュニケーション能力ゼロ、指導者、益してや教育者として、失格である。
せっかく関わりができた生徒、受講者、聴衆にどのくらいの内容を伝えることができたか、先生、教授、講師としての資質の評価と言えよう。
自慢話のようだが、小・中学校から学級委員長、生徒会長を歴任、高校は吹奏楽部の部長、大学でもオーケストラの指揮者等を経験、幼少時から、比較的人前で話す機会は多かった小生。
「人前で話すことが半ばプロ」という、今の職業を覚悟した時、自分の、無手勝流のしゃべり方に嫌悪感を抱き、いわゆる「話し方教室」に通った。20歳代初期、大学生の頃である。
人前で話すことの多くを学び、40年経過した今でも、この経験は確実に活きていると言って良い。
数ある原則の一つに、「スピーチ内容50%-50%の法則」というものがある。
例えばこんなことはないだろうか。
まったく内容が解らない本を読破するのは苦行に近い、途中で挫折するかもしれない。
でも、全部知っている内容の本では、面白くないし、読む価値がない。
もし、半分程度知っている内容が含まれていれば、読者は自分と同じ意見を持っていると著者に共感する。その上で、新しい知識が伝えられると、違和感なく心に入っていく。
この原理原則は、「話し方」の場面においても、その通り作用する。
セミナーで講師が、参加者の知っていることを100%話すと、それは全部解っていると不評をかうに違いない。では100%知らないことを話すと、参加者は理解できず、ついて来れなくなる。
セミナーなど、何か新しいことを教える場では、参加者が半分知っていて、半分新しい情報という配分、つまり50 %―50%の内容であれば、聞いている参加者の満足度が最も高くなるということである。
全く知らない情報に対して、人は予備知識がないので拒絶反応を起こす。
講師がよほどの実績のある人か、カリスマや有名人でない限りは、「この人の言っていることは本当なのか?」と、参加者に不信感を持たれてしまうことさえあるだろう。
一流の講師や講演家はよく、「皆さん、どうでしょうか?」、 「皆さん知っていますよね」と参加者に語りかけている。これは反応を見て参加者のレベルを把握しているのである。
もしそこで、反応が薄い場合は、たとえ話(=知っている50%)などを持ち出して、拒絶反応を取り除いてから、新しい情報(=知らない50%)を伝えていくように工夫する。
できることなら、セミナー受講者のレベルを事前に把握し、知っていること、知らないことを50%―50%にして、参加者に最高の構成を提供していくことが、プロとしての務めである。
毎日40年近く、黒板に向かってだけ話しかけてきた高校教師が、定年になり退職するという。
慶賀に違いないが、彼は一体、何人の「人」へ、どのくらいのことを伝えてきたのだろうか?
イヤイヤ、余計な詮索せず、素直に、「第二の人生のスタート」をお慶びしようと思っている。
2016年4月3日
カテゴリー:飯島賢二のコラム