ソフトバンクがイギリス・ケンブリッジに本社を置く半導体知的所有権会社、「ARMホールディングス」を、およそ3兆3,000億円で買収すると発表した。
事実なら、日本企業による海外企業の買収としては、過去最大規模となる。
「ARM」は基本的には半導体メーカーではなく、半導体回路の設計会社である。「ARM」の事業規模そのものは、それほど大きくはない。2015年12月期の年間売上高は約1,790億円、税引き前利益は約770億円であるが、株式時価総額が極めて高い、将来性のある優良企業だ。2016年6月時点での「ARM」の株式時価総額は、2兆2,000億円に達し、冒頭の巨額買収額となったようだ。
買う側のソフトバンク、2016年3月期の年間売上高は9兆1,535億円、営業利益は9,995億円であるが、実はこの売上高、パナソニックを超えており、営業利益は日立製作所を超えている。(日立製作所の2016年3月期における売上高が10兆343億円、営業利益が6,348億円、パナソニックの同期における売上高が7兆5,537億円、営業利益が4,157億円である)
既に、日本を代表する巨大企業であるソフトバンクとはいえ、今回の3兆3,000億円の買収劇で、一体何を目指すのだろうか。
異色の経営者と言われる孫正義氏のソフトバンクグループは、PC雑誌の出版から始まり、イギリスの携帯電話事業会社ボーダフォンの日本法人を2006年に買収して、携帯電話事業者(キャリア)となり、最近ではアメリカの携帯電話事業者Sprintグループを買収したり、ロボット事業に参入したり、エネルギー事業に参入したりと、総合的な「インターネットの会社」の構築を目指してきた。
孫社長の、無謀ともいえる、今回の巨額買収の狙いは、「パラダイムシフト」にあるという。
「次の大きなパラダイムシフトは、間違いなく『IoT』になる。大きな賭けかもしれないが、そのために欠かせない半導体の技術を持つ『ARM』と力を合わせることが必要である」…ロンドンで開いた記者会見で、孫氏自身、そう、述べている。
モノのインターネットと言われる「IoT」(Internet of Things)、
パソコンやスマホなどの情報通信機器に限らず、すべての「モノ」がインターネットにつながることで、生活やビジネスが、根底から変わる世界の実現化、つまり、ユビキタスから「IoT」へである。
たとえば朝、目が覚めて身を起こしたとする。すると、ベッドに搭載された圧力センサーが働いて、あなたの起床をキッチンのエアコンとコーヒーメーカー、トースターに無線で知らせる。信号を受け取った機械は自らスイッチを入れて動き始める。顔を洗ってキッチンに入った頃には、あなたは快適な空調の中で、焼きたてのトーストと香り高いコーヒーの朝食を食べ始めるのだ。洗面台で測った体重データが、クラウド上のマイページに転送されている。タブレット端末でグラフの推移を見ながら、あなたは最近の運動不足をちょっと反省する…こんな映画のような世界。「IoT」の行き着く先は、手塚治虫のSF世界の実現化になりそうだ。スマートハウス(鍵、照明、お風呂、エアコン等自由遠隔操作)、介護用ロボット、災害ロボット、無人工場、自動車の自動運転等、実際、一部は実証実験されている。
マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、2025年における「IoT」関連産業の規模は3.9兆から11.1兆ドルにのぼると予想、その応用分野の一位と二位に、医療介護と製造業を挙げている。
孫正義氏の野心は、古くは通信事業で、独占的地位を謳歌した日本電信電話公社(NTT)や、PCの覇者となったMicrosoftとIntel、インターネット検索エンジンの標準となったGoogleと同様に、ソフトバンクと「ARM」が、「IoT」インフラを圧倒的に支えることが可能な、世界的企業となることを目指している。
2016年7月24日
カテゴリー:飯島賢二のコラム