旅館を取り巻く経営環境が厳しい中、経営戦略の再構築を模索しているところは非常に多い。
現場では、プランや料金の見直し、直営業やネット展開の強化等、様々な角度から集客目標を達成させるための検討が行われている。
しかし、このような状況下では、策を講じても、思い描くような結果にはなかなか到達できない場合が多い。旅館の都合に合わせてくれるはずもなく、戦略が定まらないまま経営のあせりはますます深まっていく。
このようななか、ここ二年ほど経営状況が上向いているA旅館について紹介したい。
同館もバブル期に設備投資をした資金を回収することができず、数年間赤字経営が続き、大幅な債務超過に陥っていた。この間、団体客が加速度的に減少したにもかかわらず、オペレーションや営業展開は旧態依然のスタイルが続いた。これ以上、今の状態を続けるわけにはいかないと、経営者がとった戦略は、目標数値を明確にした「コストカット」。取れば取るほど赤字幅が増えることがわかった低価格帯の割合を、段階的に中価格帯へ「シフト」する。そして個人客から出る「クレーム」の検証と改善の徹底。
この三つを戦略の柱として二年間続けたのである。その結果、目標としていた「フル償却後単年度黒字」を達成することができた。
どん底から這い上がった経験から学んだことは、コスト管理による収支バランスの改善と、クレーム減少を目指したオペレーション変更だけでは、いわば事業存続がかろうじてできる「普通の旅館」に戻ったというレベルにすぎないとのこと。
さらに「選ばれる旅館」になるためには、顧客にとって「思い出、記憶に残る」旅館になることが不可欠であると、この経営者は力説した。
A旅館の創業当時、女将が最も大切にしていたのがこのことであり、A旅館の原点であるという。
顧客にはその旅館に泊まる目的がある。それを旅館は的確に読み取り、顧客の気持ちを察して接客をしていた。ところが年月が流れ、ハード志向が高まるにつれて、この考え方が逆に薄れていったという。顧客の琴線に触れることのない旅館に行きたいと思うだろうか?旅館に泊まる人が少なくなったのは、そんな一面も影響しているのかもしれない。
今、A旅館は改めて旅館の原点をスタッフが共有し、おほめの言葉が増え続けている。
| 2010年01月29日|
新年を迎え、旅館経営者の思いはさまざまであろう。景気動向や観光政策、金融政策等旅館を取り巻く外的環境要因は極めて不透明である。
各金融機関の共通の声として聞こえてくるのは、業種を問わず三か月先の売上の目途が全くたっていないところが圧倒的に多いという言葉だ。
旅館においても同様である。かつてはある程度見込みがついた大型の団体があり、季節変動の波も予想がついた。だから、資金の手当ても早めに金融機関に相談し、それがいつ返せるかも目途がついていた。
ところが昨年を振り返ってみると、高速道路のETC割引やインフルエンザ、円高に一喜一憂し、外的環境の急激な要因に振り回された感がある。
このように自分たちでは解決できないような波が、今年も現れるものだと思っていたほうがいい。それは何か正体は不明だが、肝心なことは、少々のことではぐらつかない体力をもつことができるかどうかである。
資金繰り対策に終始している旅館は、あいかわらず同じことの繰り返しで自転車操業が続いている。何とか金融機関の借入や経営者自らの資金投入、コストカットや支払いの延期等で、目先の資金ショートの回避を続けてきたところも、その旅館自体の体質が変わらなければ、いずれ失速する。
近年、自然災害が温泉地を襲った例があった。この地域は一様にダメージを受け、施設を一時休館をして改修しなければならない事態となった。さらに追い討ちをかけるように、その地域一帯の入り込みが激減した。
それから半年以上がすぎ、災害の影響がなくなりつつあるときに、息を吹き返してきた旅館と、あいかわらず沈んだままの旅館とに大きく分かれてしまった。
これはあくまでもその地をおそった自然災害がきっかけとなっただけで、衰退の根本原因は旅館の内部にあるのである。
外的環境が厳しいのはどこも同じだ。要はその変化に立ち向かうだけの内的体力を自ら作り上げる以外には方法はない。
内面を突き詰めてみれば、なるほど経営悪化の要因が客観的に見えてくる。これを直視し、自ら先頭に立って変えていく熱意が、経営者にとって不可欠の一年となる。
| 2010年01月18日|
スタッフの技量が人によって差があるのはあたりまえだ。とりわけ旅館で目立つのは人的サービスのレベル差である。
ネット系の口コミサイトを見ると、同じ旅館でも、接待をほめているコメントと逆にクレームとなっているものがある。
それは現場でもわかっていて、Aさんは人当たりがいいが、Bさんは雑だという声があがる。女将が何回注意しても直らないので、いつも困っているというような話である。
顧客から見れば、たまたま担当がAさんになればラッキーだが、Bさんの場合は不愉快な思いをする確立は高い。
でも様々な理由から、Bさんの問題可決を図れないまま引きずっているケースが多い。
実はこのような現象については、何もサービス部門に限ったことではなく、全ての部門に存在する。そして何らかの形で顧客に影響を与えている。それがその旅館のグレードに直結しているのである。
今、旅館の品質を上げる有効な手段は、業務ごとのスタンダードを確定し、それがいつも皆できるように教育訓練を実施することだ。そしてそれができないスタッフには配置転換をはじめとした対応をすることを、あらかじめルール化することである。
日常が何となく回っているからという理由で、オペレーションの現状をチェックしていない旅館が非常に多い。昔決めたであろう手順を、何の疑問もなく続けている危険性に早く気づくことである。このきっかけは、口コミサイト等の顧客の声であがったクレームや要望事項を活用することが有効だ。
個人客が釈然としないことは、オペレーションに何らかのひずみが生じていると思ってよい。だが、現場に対して口頭で注意をするだけでは、いつまでたっても解決はしない。
まず、問題となったオペレーションの現状をよくみることだ。その結果、なるほどこれが原因だったのかというものが必ず見えてくる。そこで目指すべきオペレーションを確定し、現実とのギャップをいかにして埋めていくかを決めていく。それを全力でスピーディに変えていくことである。
今、求められているスタンダードの構築と、その実現が、顧客から選ばれる旅館になるための確実な道である。
| 2010年01月05日|