第289回 宿のよさをわかりやすく販促・告知する

 事業を展開していくうえで、利益を生み出しキャッシュがまわっていくためには、自社独自のビジネスモデルが確立されていなければならない。

 一昔前までは、ドンブリ勘定であっても、とにかく客が来てくれさえすれば全てが解決した。

 ところがどんなに名門であっても、集客が極端に落ち込めば遅かれ早かれその旅館は市場から撤退しなければならない。
 だからこそ、経営者は満足のいく商品を提供し、リピートしてもらうとともに口コミで評判を広めてもらうための仕組みを再構築しなければならない。

 ここで最も重要な要素は「顧客への提供商品」と「顧客への販促・告知」という二つのバランスだ。これがうまくかみ合わないと、ビジネスモデルが有効に機能していかない。

 提供商品が顧客のニーズを満たすことができず、なおかつ販促が不十分という旅館は加速度的に経営状況が悪化していく。

 提供商品の質が不十分にもかかわらず販促が有効で集客が図られたとしても、顧客の厳しい評価がくだされればその悪評は瞬く間に広がっていく。車の両輪がバランスを欠いた状態でのドライブは長続きするものではない。

 何とかしなければならないカテゴリーは、提供商品が十分顧客に対して満足するレベルにあるにもかかわらず、販促・告知がうまく機能せずに、集客が思うようにできないという旅館だ。

 共通する特徴は、テレビをはじめとしたマスコミの取材を好まず、顧客に提供している商品の品質維持のための努力や工夫は当たり前のもので、それをいちいち顧客に知らせるのははばかられるという考え方の経営者たちである。

 ところが常連客の年齢層が高くなり、自然にその数は減る。一方新しいタイプの旅館がリニューアルも含めて登場し、巧みな告知によって新規で行くならこのタイプが優先される。

 その結果、いつの間にか高品質の宿にもかかわらず経営状態が悪化していくというプロセスを歩むことになる。

 特に見込み客に対しては、自社の良さをわかりやすくアピールしていかなければ新規客は取り込めない時代だ。販促・告知の必要性は厳しい時代だからこそ、宿を選択してもらうための重要な要素である。

第288回 新幹線開通を期に取り組むべきこと

 久方ぶりで青森県を訪問した。ねぶた祭りの直前という時期であったためか、以前より活気が戻ったような感じだ。そして、いよいよ今年暮れには新青森八戸間の新幹線が開通する。 交通アクセスが便利になることで集客アップを期待している関係者は多い。

  しかし、5年後にはこの新幹線も函館まで伸びることになり、その時点で、青森はへたをすると単なる通過都市になる危険性を大いに含んでいる。

 したがって、今のうちから魅力ある観光地としての位置づけを確保すべく「結集!青森力」を合言葉に行政をはじめとして、様々な取り組みがなされている。

 この一連の活動のなかで、資本力がない観光関連業者たちが、横の連携を十分に意識した商品を構築し、新幹線利用者に対して売り込んでいこうと、様々な商品が企画されている。

 このような一大イベントを目の前にして、企画作りに懸命になり、それをサポートする行政とともに、青森の魅力を発信し続けることに対しては大いにエールを送りたい。

 ただ、ここで肝心のことがある。それはそれぞれの事業所が利益を出し、キャッシュが円滑に回ることである。このことなくして、いくらイベントを行っても事業経営が続かないのでは本末転倒だ。

 青森県内の観光関連施設を覗いてみると、やはり団体客が大幅に減って個人・グループ客が主な客層になっている。

 したがって、団体客が大多数を占めていた時代と比べると、集客数や売上絶対額が減少しているところが大部分である。

しかし、ここで差がでるのは売上が減っても、結果として利益が出る経営体質にシフトした事業所と売上高の減少に伴って赤字が続くようになった事業所である。

客層が変わると、求めてくるものが変わる。その変化に対応するために経営体質を自ら変える。これを実現しない限り規模の大小は関係なく市場からの撤退を余儀なくされる。

過去の延長で生き残れる時代はとっくに過ぎ去った。革新的でその価値がわかりやすいところが顧客から支持される。青森においても、新幹線開通を期にその真価が問われることになる。

第287回 「郷土文化伝承の宿」の商品発想

 ある小規模旅館へ出向いた。ここは泉質のよさを売りにしており地元客の日帰り利用と宴会を伴った宿泊が主な客層だという。

 施設の老朽化が目立ち、客室の多くがアウトバストイレであるため、大手エージェントからの送客は皆無に近い。

 自ら打って出なければ、この先売上の低下は避けられないことは明白だ。そこで経営者は近隣の体験型窯元や有名文人の生家、郷土の文化関連観光施設とタイアップし、周遊型観光と宿泊をセットにした独自の商品を作成し中小エージェントに売り込んでいった。

 努力のかいがあって少しずつではあるが、このタイアップ商品が売れ始めていった。

 本来ならば、旅館は施設・料理・サービスといった基幹商品についてのレベルアップを図り続けなければならない。しかしながら、資金的、能力的、人的な面から理想的な展開を図っている旅館はごく一部にすぎない。

 ならば、このハンデを克服する手立てはないものだろうか。この旅館経営者は旅館を基点とした地元ならではの連携商品を複数開発することが不可欠であると考えた。

 そこで「郷土文化伝承の宿」というコンセプトのもと、地元で埋もれている歴史・風習・遊び・料理・芸能・施設等をピックアップし、ひとつずつひもとくことからはじめた。その結果、かつて数十年前に盛んに行われていた指人形劇が目に止まった。しかし、後継者がいなくなってしまい消滅寸前の状態だという。

 旅館経営者は地元の人々にとってはとても懐かしい指人形芝居を宴会場で復活させ、やがて定期的な上演にまでこぎつけた。

 ウイークデーの高齢者団体を主なターゲットとして、昼食つきでの商品化に成功したのである。

 これは社会的にも意義のあることだということで各マスコミの取材も多く、結果的に宣伝効果も得た。

 今後はこの指人形芝居をきっかけとして、さらに郷土の文化の発信基地として旅館の立ち位置を定め展開を図っていく計画だ。

 基幹商品のみで他館との差別化を図り、集客していくには限界がある。だとしたら、旅館を取り巻く環境を見直し、それを取り込んで旅館商品を構築する発想を持つことも悪くはない。

 第286回 課題解決は根本原因の解明から

 ある中規模旅館での出来事である。現場の課題を見つけ出し、解決を続けることで提供商品のブラッシュアップを続けている。

 ある日、厨房から社長に、最近食器の破損が目立つとの報告を受けた。そこでまずは破損の現状を把握することからはじめるため、毎日の破損した食器を集めて写真を撮り記録するとともに、各フロアおよび宴会場のパントリーと洗い場に幹部社員を抜き打ちで配置した。そして現場のオペレーションがどうなっているのかを確認した。

 その結果、残飯や飲み残しを捨てることなくコンテナ(ばんじゅう)に入れていること、また、ガラスや食器、コンロも分別することなく、ひとつのコンテナに押し込んでいた。

 これがいたるところで行われていたため、コンテナが数多く必要となるとともに、食器の破損があとをたたない直接的な原因であることが判明した。

 経営サイドでは、当然この直接的な原因をクリアしていくとともに、なぜこのようなことになっているのかという、根本的な原因が必ず別のところにあるはずだという仮説を立てている。

 そこでさらに現場スタッフの行動と意識を調査したところ、接待係は団体・グループ客を二次会に誘導し、同席することができたとしても、下善の仕事があるため、すぐに二次会の接待へ移行することができず、機会損失が生じる場合が多いという。だから、できる限り早く下善をすませ二次会会場へ合流するために下善のオペレーションがぞんざいになってしまっているということが判明した。

 経営サイドでは、接待係が団体客を二次会へ誘導し、二次消費拡大に貢献することは大歓迎である。この場合の売上と、これをスムーズにするために下膳専門の臨時スタッフを数名雇うことのコストを計算し、団体客の入り込みに対応できるスタッフを即座に増やした。

 このような一部の現場だけでは対応できないが、部門間の連携と大局的な判断で一気に解決できる課題が結構あることがわかった。

 まだまだ他の部署に対しては無関心という風潮が消えてはいないが、このような結果をひとつひとつクリアしていくことでブラッシュアップが確実に実現していくのである。