旅館に対して公的機関や金融機関が、経営指導や各種講習会の提供サービスを実施している。
それらの大部分が無料ないしは格安で受けられるものである。
ちょうど今頃は来年度事業の概算がほぼ決定し、詳細内容について詰めている時期だ。
担当者の立場としては、何としても多くの事業所に参加してもらいたいと思っている。
ところがせっかくこのような企画をたてても、思うように集客ができないで頭を抱えているケースも多い。
先日も地方の信用金庫が旅館向けに経営改善のセミナーを企画し、お得意先の旅館に受講を呼びかけた。
数多くの旅館の資金需要に答えてきたこの信用金庫は、何とかして貸出先の旅館の経営状況を改善させたいという思いがある。
そのような事情から、観光関連事業所に対する経営改善の側面からの支援を積極的に行っている。
ところが受講料が無料であるにもかかわらず、受講する旅館は少ないと担当者は頭を抱える。
なぜ、受講しないのかとある旅館経営者に聞いたところ、いまさらセミナーを受講したところで経営改善にはつながらないと、最初から結論付けている。
セミナーの主催事務局は、立場上受講者を相当数集めないと格好がつかないため、「付き合いだから」と受講するよう依頼する。
実はこのような経緯を経たセミナーは講師の立場からすると、すぐ察知する。まず、開始時刻になっても集まりが悪い。
講義中もうわの空。質問もない。そして終了後は受講者同士でまったく別の話題で盛り上がるというパターンだ。
これとは全く対照的に、公的なサービスを活用している旅館もある。常に問題意識を持ち、経営者のみならず従業員も積極的に講習に出席する。
そして必ずその結果得たことを旅館のミーティングで出席者が講師役となってレクチャーしている。
これが定例化しているから、受講者の意気込みが全く違うのである。
この旅館は、顧客の情報共有や業務改善についても同様にモチベーションが高い。
仕方なくやらされているというのと、何かを吸収しようという心構えとでは、同じセミナーを受講しても、全く効果は違ってくる。
そして物事に対する取り組み姿勢は経営成績に反映していくのである。
| 2010年11月30日|
忘年会・新年会シーズンを間近に控え、地元法人・団体への営業展開が激しくなってきている。
多くの中規模・大規模旅館は、ここ数年の入り込み構成の推移をみると、明らかに
団体客の減少・個人客の増加にシフトしている。
個人客は宿泊単価が高くても、二次消費は一般的に期待できないため、旅館としては地元直セールスによる団体・グループ客の獲得に力を注ぐのは当然のことだ。
しかし、ここで問題が発生している。例えば毎年忘年会を行っている得意先の団体に対し、競合旅館が昨年よりも二千円程度の値引きを提示してきたとしよう。
この料金に魅力を感じたと幹事から告げられた貴館の営業マンは、どのように対応するだろうか?
ある旅館では、団体客をとられるのを避けるため、低価格でも無条件で受入れることが日常化してしまった。
その結果、たとえ二次消費が発生しても、基本宿泊単価が個人客と四千円近く差が開いてしまったため、結果として消費単価も個人客よりは低くなり、赤字体質の原因になってしまっているという事態が発覚した。
これは旅館のオペレーション上、どの部署も「見える化」して、仕事の中身を理解することで、協調する姿が生じているさなか、営業セクションだけが別の方向に向かっていることを露呈してしまった。
現在この旅館では、週始めの営業会議において、一週間の営業予定と進捗状況を確認するに留まり、そのプロセスや結果については、営業の部署以外には知らされていなかったのである。
そこで経営者は、今後二ヶ月先のカレンダーを作り、営業マン別に成約結果を全社員に公表する仕組みをとった。
この結果、営業マンには当然成約の差が生じ、成績の公開に耐えられないと訴えた人がリタイヤするということが起きた。
しかし一方で、もう恥はかきたくないと、本気で取り組んだ営業マンも現れた。
そして何よりも、普段何をやっているのかわからない存在であった営業部署が、他のセクションから身近な存在として、受入れられるようになったことが何よりもの収穫となった。
旅館の「見える化」に例外を設けてはならない。
| 2010年11月22日|
料理を客に出すという行為。
これはただ黙ってお皿を客の前に出すのではなくて、器や小物の演出とともに、
食材・季節性・地域性・調理長のこだわり・調理の手間を客に告知することで、料理の価値が格段に上がる。
ならば料理だけに限定せずに、人的・機能的サービスや、施設のメンテナンス・清掃等についても、価値を上げるしくみがつくれないものだろうか。
スタッフが旅館や客に対する特別の思い入れがあって、それを客の見えないところで懸命に実践しているという事実があれば、そのことを客に告知するという試みについて考えてみたい。
つまりあえて「スタッフが主役」という場面を作り、その考え方や動き方に客の共感を呼ぶというストーリーである。
告知の手段としてはホームページや客室に置くご案内帳が最適だが、くれぐれも「こんなにやっているのだ」と、いやみにならないようにすることが肝要だ。
さて、実際の手順だが、まず一日のスタッフの業務の流れと具体的な内容をシートに落とし込む。
そしてそれぞれの場面で客によりよい商品を提供するために、努力・工夫をしている事柄を逐一ピックアップしていく。
そしてもっとそのレベルを上げていくにはどうしたらいいかをスタッフ全員で検討していく。
これが提供商品の継続的な質的アップとなっていく。
この業務改善の取り組みが告知され、スタッフの業務と顔が客先の前面に出ることにより、スタッフの張り合いと同時に責任感も上がるようになる。
スタッフのモチベーションアップは、旅館経営を円滑に進めていく上で、実は極めて重要な要素である。
施設、料理で集客アップが難しいなか、スタッフのモチベーションという、今まであまり表に出てこなかった要因について、経営者が戦略的に改善を図るという視点は、旅館の集客アップにもつながっていく重要な要素である。
厳しい経営環境のなかにあって、旅館が勝ち残っていくためには、円滑なキャッシュフローや集客アップ策についてのノウハフが不可欠である。
しかしこれを実現するためには、旅館を支えるスタッフのモチベーションなくしては成し得ない。
| 2010年11月15日|
以前、食器の破損が多い旅館について記述したことがある。
今回はその続きをお知らせしたい。
あるとき、食器の破損が多いという声が、経営者の耳に入った。現場の改善に積極的なこの社長は、早速用度責任者を呼び、食器の破損実態を調査させた。
その結果、一週間での破損総数は何と五十個をこえていた。ダンボールに入れられた破損食器の山を見た経営者は、すかさず破損の現場と原因を突き詰めるよう、責任者に指示したのだった。
数日後、責任者は食器の洗浄方法やコンテナの扱いも雑なところがあり、洗い場での破損の可能性があると見た。しかし、現場担当者に言わせると、洗い場に来た段階で、すでに食器の破損が多数あるという。
この旅館では、部屋出し、宴会場、レストランと各方面から食器が次々と届く。それぞれの現場を調査したところ、残飯と一緒に食器を詰めている、食前酒のグラスと湯豆腐用のなべをいっしょに放り込んでいる、コンテナの中に「遊び」がある状態でぞんざいな扱いをしている等の実態が目に留まった。
このようなことが毎日おこなわれていたため、毎週五十個を超える食器を破損し、どこにも報告なく廃棄されていたのである。
一方でコストダウンをスローガンにかかえながらも、このようなザル状態の現場の存在に、社長は愕然とした。
そこで数名のプロジェクトチームを作り、現場改善に取り掛かった。
当初はどの部署のどの段階で破損が生じたのかを調査しようとしたが、正確につかむことは困難だった。
ならば部署ごとに破損の原因を除去しようということで、残飯の処理をパントリーで実施する事。割れやすいグラスはまとめて扱い、ぬれたタオルをかぶせること。同じ食器類をまとめてコンテナに入れることを徹底指導した。
当初は面倒だという声が一斉に上がったが、破損した食器の現物とそのおおよその金額を毎日事務所前に提示し続けた。その結果、一ヵ月後には何と半分以下に減少したのである。
各現場ではほんの少し手間が増えた。しかしそのことで次の過程の仕事が格段に楽になり、破損も激減した。その結果を公表したところ、一番喜んだのは何と当初文句を言った現場のスタッフたちだったのである。
| 2010年11月08日|