ある旅館の営業戦略会議にオブザーバーとして出席した。
今までは、収支や入込み計画と実績の差異を出し、その分析と次月以降の計画達成のための行動予定を確認していた。
しかし、これを繰り返していても、抜本的な改善にはほど遠く、「やり方が間違っているのではないか」と、経営者が一言。
そこでこの旅館の売上実績を再度分析してみようということになり、顧客を組み人数別で「個人客」「小グループ客」「団体客」の三パターンに分類した。
そして月別に売上、宿泊単価、二次消費単価、総消費単価、人数、構成比を数字に落とし込み、傾向を探ってみた。
その結果、個人客はネット系および自社ホームページ上からの集客が確実に伸びている。宿泊単価は最も高いが、二次消費が低い。
団体客は旅館の直営業が獲得している団体だが、価格競争の影響を受け、宿泊単価の低下が著しい。
二次消費はまずまずだが、宿泊単価の低さが足を引っ張り、総消費では思ったほど伸びていないことが分かった。
一方、「小グループ客」は宿泊単価が個人客に追随し、二次消費額は最も高かったのである。
この結果、最も歓迎すべきカテゴリーは五人から一〇人程度の「小グループ客」であることが明らかになった。
ところがこの旅館では、個人客と団体客向けの企画プランや営業方法は確立されているが、小グループ客に対しては、実際何もしていなかったのである。
そこで「小グループ客」向けの商品をいきなり考えるところであるが、その前にこれらの客について、「予約カテゴリー、宿泊目的、料理ランク、人数、単価および現場でのヒアリングや観察」といった内容で実態調査を行うことにした。
小グループ客は、同窓会等の記念日や、毎年の集まり等、宿泊目的が明確な場合が多い。
ならばそれらのカテゴリー別に、さらに喜んでもらう商品やサービスを展開することで、積極的な営業展開が可能になるのでないかという目論見だ。
たしかにバス数台で訪れる団体客が激減し、個人客にシフトしたということで、どこの旅館も個人客狙いの提供商品になりつつあるが、いま少し、自館の顧客分析を行うことで、他館とは異なる提供商品と営業展開をする必要がある。
| 2010年12月25日|
経営が厳しい状況にあるという旅館経営者から相談を受けた。
売上はバブル期のピークから見ると、約三分の一に減少している。キャッシュフローに苦慮し、金融機関へリスケを打診し、粘った交渉の結果ようやく半年の猶予を得た。
たしかに猶予期間は返済分のキャッシュが浮く計算になるが、要はその猶予期間中にしっかりと建て直しができるかどうかにかかっている。
猶予が決定し、ホッとしていると、すぐに六ヶ月なんてすぎてしまうものである。
このような状況の旅館は、総じて経営状況の悪化とともに、提供商品のレベルダウンが起きている。
その原因は、スタッフのモチベーション低下に他ならない。
ではなぜモチベーションが低下するかというと、経営者が日々の資金繰りや人繰りで振り回され、スタッフが元気に働く環境と意識付けを行うことができないでいるからだ。
その経営者は、わかってはいるが日々の苦悩がそのまま顔や態度に出てしまうという。その波動がたちまち全スタッフに届いてしまうのである。
この負のスパイラルを止められるのは、経営者当人以外にはいない。しかし、悩めば悩むほど何をどうやったらいいのか分からなくなってしまう。
あせっても悩んでも、結局は何も解決しない。このような状況になったときは、この先わが旅館はどうなるのかと考えるのを一旦やめ、本来、自分はこの旅館をどのような状態にしたいのかをもう一度思い描いてほしい。
つらい日々が続いてからは、旅館の理想像などとは無縁になってしまっていたのではないか。
だから、もうだめだ、打つ手はないと思うと、現実にそのとおりになってしまう。
しかし、唯一の可能性は、この環境下にあっても理想の旅館を描き、それを達成させるための計画を緻密に作り上げることから再スタートすることである。
経営者であれば、客に心から喜んでもらうにはどうしたらいいかを具体的に実践できるはずである。
これを何が何でもやりきると宣言してしまうことだ。外科的手術野の再生プロセス議論は、それをやりきったあとでいい。
何もアクションを起こさなければ、悔いが残るだけだ。
| 2010年12月10日|
以前このコラムでも述べたが、今の旅館業を支えているのは、名の知れた旅館や
エージェントが送客する規模の大きい旅館ばかりではない。
むしろ、マスコミに登場することもなく、細々と家族で経営している実に多くの旅館が
ある。
このような類の旅館は、提供商品に対してアドバイスを受けるというような機会は
ほとんどない。
しかし、その旅館が金融機関から借入があり、経営状況が年々悪化してきたとする。
金融機関としては、何とか経営を上向きにして、約定どおりの返済をしてほしいと
考える。
そこで、担当の金融マンからアドバイスを受けるケースは多い。
しかし、そこでは「課題と解決の方向性」は示せたとしても、具体的に何をどうしたらいいのかは、畑違いの金融マンでは何もできないのが常である。
そこで金融機関や旅館組合、観光協会等、その旅館を取り巻いている関係者が、
それぞれの旅館を客観的に見て評価し、埋もれているいいところを見つけ出して
アピールするというしくみをつくって見てはどうかと思っている。
なぜこのようなことを言うのかというと、縁あって公的な支援事業で、零細旅館の
継続指導を実施している。
その旅館は長年固定客を中心に集客を図ってきたのだが、年々少しずつ減少し、
その穴を新規客で埋めていくことができずにいた。
その理由は、新規顧客をその旅館に呼び込む手立てがなかったためである。
ホームページは業者任せで、数ある旅館の中での優位性はない。
でも、その旅館のよさは経営者夫婦の接客のあたたかさと、実に手間ひまかけた
手作り料理なのである。
そのことを当人たちは全く気づいていなかった。そしてその中身をヒアリングし、体験することによって、見込み客へアピールするキーワードが見えてきたのである。
このようなちょっとした機会をつくり、その旅館のよさを見つけ出すことは、コンサル以外の人だってできることだ。
多くの旅館に気づきの場面をつくるためのしくみを、各地で展開していくことにより、今まで光が当たらなかった零細旅館にも、本来持っているその旅館のよさを引き出すことができるかもしれない。
| 2010年12月09日|