第331回 再生の分岐点とは

 あいかわらず金融団会議、いわゆるバンクミーティングに出席する機会が多い。

 金融機関が独自の査定で債務者を区分し、破綻懸念先に下がってしまうと、その案件の担当は支店から、本部に移る場合が多いようだ。

 支店レベルでは、融資先には何とか元気になってほしいという気持ちが基本的にある。

 しかし、本部はスタンスが全く異なる。

 それは、その企業が立ち直ることが出来るかどうかを冷静な視点で判断することが求められているからだ。

 その「立ち直りの可能性」の尺度とはずばり、フル償却をして経常利益がでること。

 これに尽きるのである。

 金融機関本部の、この種の案件を手がける部署は、「経営支援部」や「再生支援部」といった、一見企業再生のお手伝いをしてくれる、ありがたい部署のような印象を与える。

 しかし、再生の土俵にのぼるには、前述の尺度をクリアしていることが大前提だ。

 これは道理にかなっており、いくら負の財産をカットあるいは棚上げしたところで、今後利益をあげていくことができなければ元も子もないからだ。

 これはどのような金融機関であっても変わらないものである。

 だから債務者である旅館は、今後金融機関から何らかの支援を受けて再生を図っていこうというつもりならば、是が非でも償却後利益を出し、しかもこれを続けていくことが出来る可能性を示さなければならない。

 金融機関は鉛筆をなめながら作成した「絵に描いた餅」の経営計画を最も嫌う。

 金融支援をした上で、その旅館が正常化するまでのリミット(期間)が明確に定められている以上、ここから逆算して経営計画を策定することは当然である。

 したがって、それを実現していくための根拠、つまり再生の為の戦略・戦術と具体的行動計画は必須であり、なによりもその実現プロセスを金融機関は注視している。

 金融機関は財務的にみた理想と現実の姿は良く見えている。

 しかしそのギャップをどうやって埋めていくことが出来るかについては、全くの素人である。

 それを行うのは唯一旅館経営者であり、実際に出来るかどうかがまさに再生の分岐点である。

第330回 「信頼」を失わないために

 ビジネスはもちろんのこと、人との付き合いにおいても最も重要な要素のひとつとしてあげられるのは「信頼」だ。

 物事がうまくいっているときはいいが、そうでないときに、この信頼を裏切る行為が時として発生する。

 たとえば約束した納期を守らない。

 支払延長を何の連絡も無く実施する、等々。事が大きくなると、事業の存続に影響する事態にもなりかねない。

 信頼されない人や企業と言うのは、そのような行為を繰り返す。

 だから、ある時点でこれ以上付き合うのはよそうということで縁が切れてしまう。

 人も企業も単独では存続し得ない。

 周りから多くの支えや支援があってはじめて成り立っていくものだ。

 ところが信頼できない人や企業は自己の都合を最優先に捉えて行動する。だから、時として相手を傷つけても何とも思わない。

 毎日の経営においては、さまざまな意思決定を連続しておこなう。

 その結果は関係者にとって必ずしも満足する結果とは限らない。

 考え方や立場が変われば正反対の感情を抱くことのほうがむしろ多い。

 それでもひとつの結論を出して、進む方向を明確にしなければならない場合、その理由と関係者へのフォローアップを忘れないことがとても重要だ。

 信頼を得るということは、相手の満足する結果を出し続けることではない。

 自分とは違う相手の立場や考え方を理解し、それを踏まえた上で自分の行動について理解してもらうことである。

 腹のそこから納得はしなくても、相手にも立場の違いを認識してもらうことで、人も企業も大人の付き合いができる。

 厳しい経営環境の中にあって、殺伐とした人間関係や企業間の出来事が多い。

 しかし、人や企業の「誇り」としてとして、信頼される行為を実践することが大事だ。
 
 「自分の周りはすべてがお客様」という考え方がある。

 周りの人に少しでも今以上に喜んでもらうために、今時分には何が出来るか?

 これを忘れた旅館や経営者そしてスタッフは、必ず周りが離れていく。

 ビジネスモデルは理屈だけでは決して成り立たない。

 なぜならばその先には感情を持った「人」がいるからである。

 思いやりや「おもてなしの心」の原点がここにある。

第329回 自ら「変化」を!

 3年前、アメリカのオバマ氏は「チェンジ」と叫んで、アメリカ国民を魅了し大統領に就任した。
 
 それからわずかの間にリーマンショックや政権交代、大震災に原発事故と、世の中を揺るがすエポックメーキングな出来事がわれわれの周りに次々と起こってきた。

 これらは「想定外」の連続であったが、もはやその言葉で片付けられる時代ではなくなったのかもしれない。

 外的環境の急激な変化というのは、えてして悪いイメージで捉えられている。

 だから急激な環境変化に適応できないところは、経営の悪化の原因をそのせいだけにしたりする。

 でも結局のところ、それでは誰も助けてはくれないよということで、環境の変化に敏感に反応せよと、マネジメントの先生やマスコミに頻繁に登場する実務家たちは口を揃えて言っている。

 しかしそれだけではまだまだ受身体質から脱却できない。

 むしろ自ら変化を肯定し、変化を仕掛けていく体質がエクセレントカンパニーのスタンダードとなっていくのではないか。

 旅館業は総じて「待ち」の商売が続いた。

 商圏が広いため、直営業だけではおのずと限界がある。

 したがってエージェントにその多くを依存し、多額の手数料を支払ってでも集客をしてきた。

 それがネットに移行してきたところで、その体質は基本的にかわっていない。

 しかし、長く続いた「客を待つ」という基本スタンスでは、もはや旅館のビジネスモデルが成立しない。

 常に変化し、自ら発信する姿勢を経営者が行う事により、旅館の雰囲気が目に見えて変わってくる。

 逆に客はもう来ないとあきらめてしまったところは、その姿勢が鮮明に具現化してくる。

 そこからは負の連鎖反応が加速し、やがて手の打ちようがなくなってしまう。

 あれこれと悩み、何の行動も起こさないのでは、結局時間だけがすぎさってしまう。
 
 ビジョンやそれに向かう行動が無いところは、例外なく衰退が待っているだけだ。この業界がここまで来るのは想定外だという前に、
 
 自分なりの「チェンジ」とは何が必要かを、改めて考え直してみるべきだ。