第405回 事業承継は至上命題 ①

 passionという言葉がある。

 日本語に訳せば、情念、感情、愛情、激情、情熱などの意味がある。

 しかし、先日ある人は、『passionはpassionだから、日本語には訳せない』と言っていた。

 なぜこのような話になったかというと、経営をする上で、何が一番大切なのかという問いに対して、その人は『passionとvisionだ』との答えであった。

 私も同じように思う。

 あいにく英語には堪能ではないのでパッションの意味は日本語で情熱と解釈すると、経営者にとって一番大切なものは情熱と戦略と言い換えることができる。

 これが、すべての原点なのだと思うし、このことはなかなか従業員には無い感覚で、俗に言う経営者感覚の最たるものだと思う。

 よく言う創業者はこの情熱と戦略を十分すぎるほどに持ち合わせているのだと思う。

 それが故に大きなエネルギーを発揮できるのだと。

 しかし、今回は後継者にスポットをあてて考えた場合、この経営に対する情熱と戦略はどうであろうかということがしばしば問題になるのである。

 そこで今回からは事業承継について触れていきたい。

 事業承継は、大きく分けて3つのパターンに分かれている。

 1つは後継者、主に親族による事業承継のケース、そして2つめは後継者は役員・従業員の中から指名するケース、最後は後継者が居ないケースである。

 しかし、ホテル・旅館も1つの企業であるが故、ゴーイングコンサーンでいかなる場合においても企業は継続するということが前提なのである。

 もちろんそこには従業員、その先の従業員の家族、そして納入業者、納入業者の家族と企業の経営いかんによって影響を受けるステークホルダーが多く存在することを認識することがスタートになる。

 なので、経営はもちろんのこと、上手な事業承継を行うことは、企業の社会責任を果たす上で至上命題なのだ。

 さて、このことを日本の旅館に置き換えて考えてみると、現在ある日本の旅館の多くは歴史がある旅館が多く創業者経営ではないケースが多い。

 中には創業は江戸時代やそれ以前などという旅館も少なくない。

 また、別の統計によると、日本の企業の約7割が後継者が居ないというデータがある。

 この統計が旅館に必ずしも当てはまるということではないだろうが、この連載では何度も言っているが、旅館は日本の文化を今に伝える重要な役割を担っている。

 そのため、旅館の事業承継問題は、同時に日本文化の承継の問題であると私は位置づける非常に重要なことなのだ。

 旅館の事業承継問題はそこで事業承継の方法やそのために必要なこと、大切なことなど何回かにわけて案内していこうと思う。

第404回 相手を知り、己を知れば 金融機関との交渉 ④

 さて、前々回、金融機関の立場やデメリットを理解し、交渉に臨むというお話をさせていただいた。

 今回は、その具体的な金融支援による企業の再生方法について紹介していきたい。

 まず、一番にあげられる方法としては金融機関へ借り入れ条件の変更をお願いする、いわゆる『リスケジュール』というものである。

 多くは、元金据え置きの利息のみを払うという形で行われていることが多い。

 このコラム欄にもたびたび登場する『金融円滑化法』はこのリスケジュールが受けやすくなっていたという制度であった。

 というのも、金融機関の立場から考えるに、通常の場合、このリスケジュールを実行する際は、前回に合った債務者区分を下げなければならず、その分引当金を積まなければいけなかったのだが、この制度適用中は、債務者区分を下げることなくこの支援を行えたのだ。

 このリスケジュールの支援は、しっかりとした経営計画があり、ゆくゆくの将来像をしっかりと示し、条件を変更することにより、その間企業に体力をつけ、今後の返済実行を目指すという策である。

 しかし、その期間中は新たな融資を受けることが困難になるというデメリットがある。

 そして、次にあげられるのが、最近ではわりと耳にするようになった、『資本性借入金』である。

 この資本性借入金とは、債務超過状態にある企業が現状の債務を資本的な株や劣後ローンに変え、返済条件を大幅に変更してもらう手法である。

 この支援策を受けることにより、企業は元金返済、利息の支払いを劣後にすることができたり、配当という形で利益時に償還するなどの有利な策がとれる。

 しかし、金融機関側としては引当金の額が100%であり、尚且つ、現金はおろか利息の返済も大幅に条件変更されることより、なかなか引き受けが厳しいのが現状ではあるが、近年、公的な機関である『中小企業再生支援機構』や、認定制度である『経営革新等支援機関の認定制度』などにより以前よりかは受け入れやすくなってきている。

 ちなみに、債務を株のような資本に交換することをDES、債務を劣後ローンに交換することをDDSという。

 他にもいくつかの手法があるが、大きくこの2つが良く使われる手法になってきている。

 いずれにせよ、金融機関より条件変更等の支援をお願いし、支援を受けているその間に企業の体力をつけることが大前提になり、そのためには、金融機関の立場をよく理解し、そして、納得、協力、支援していただけるための経営計画が必要になることは言うまでもない。

 もし、このようなことでお悩みの場合はまず身近な税理士等の先生に相談することを、そして、できれば認定機関に指定されている実績のある先生にご相談することをオススメする。

第403回 番外編 メキシコの話

 今回は番外編で、先日の話を書きたい。

 先日、とあることからニューヨークに一週間ほど言ってきたときに聞いた話である。

 メキシコ第3の都市、プエブラという町がある。

 産業の中心は自動車産業で、特にフォルクスワーゲンの工場があることで知られている町である。

 日本向けのフォルクスワーゲンはほぼこのメキシコのプエブラで作られている。

 そんな都市、プエブラは日本とのかかわりは決して多くないのだが、今この町では空前の日本ブームが起こりつつある。

 それは、『気を遣う』ということだということだ。

 実はプエブラは街として世界遺産に認定されている。

 そのため、今後の方向として工業部門はもちろんのこと、観光客を集めるということに産業の向上を画策しており、そのために日本式の接客、いわゆる『気を遣う』を広く浸透させようとしているのである。

 例えば、店で買い物をする際、両手でお釣りを渡すのは日本だけであったり、道端ですれ違った人に対して、挨拶はできなくても日本人は必ず目が合えば、笑顔でにこっと会釈をする、また、きちんと順番通りに列に並び、電車等では、降りる人が優先で、列が一度左右に分かれる。

 日本では当たり前にマナーとして広く浸透していることが、海外では、不思議に思われているのである。

 このことをサービス業に従事する人はもちろん、街と全体として徹底させ、浸透させ、どの国の観光客が来ても、プエブラの人は気持ち良い対応をしてくれるという街にしていきたいとのことだ。

 プレブラでは工場の品質管理の標準の中にこの日本式『気を遣う』を取り入れていく方向だという。

 これこそが日本の最たる宝であり、諸外国が見本とするところなのである。

 さて、では当該国日本ではどうであろう。

 自分の国のことに目を向けて考えてみた場合、ホテル・旅館業はもちろん接客マナーに力を入れているだろうが、他はどうであろうか。

 自分の街に旅行に来たお客が旅館では素晴らしい接客を受けたが、飲食店ではあまり良い気持ちになれなかった。

 お土産屋ではそっけない態度であった。

 交通機関の人が話しかけても無視された。

 そんな話をよく聞く。

 そんな街に、いくら旅館の接客がすごくてもまた来たいと思うだろうか。

 友だちに自慢するだろうか。

 日本の裏側である、メキシコのプレブラの取組みは自国を誇りに思うと同時に、胸が痛くなるような話であると感じた。

 この場では何度も申し上げたが、今一度、おもてなし・気を遣うということをもう一度考え、観光客を受け入れるためにはと自分だけではなく地域全体で取り組む必要があると、メキシコに教わった気がする。

第402回 相手を知り、己を知れば 金融機関との交渉 ③

 前回、前々回と、企業が金融機関と交渉するのには、相手をよく知ること、具体的には、借入金がある場合、金融機関は、それ相応の引当金を積まなければいけない、そして、その引当金の割合は債務者区分によって決まっているということをお話しした。

 つまりは、金融機関との交渉をスムーズに進行させるには、相手のリスクをも考慮し和らげる配慮、今回でいえば、引当金の額を抑えることがポイントとなる。

 そして、そのためには評価をあげて債務者区分を上げることが重要なのである。

 しかし、債務者区分のその大部分は決算書提出による数字での評価が強い。

 概ね決算書の数字できまってしまうため、決算書の数字が悪い場合は、どうしても債務者区分は低く評価されてしまう。

 そんな中評価を上げるにはどのようにしたらよいのかを今回は触れていきたい。

 まず、わずかだが、評価に影響するといわれていることが数字上ではわからない部分になる。

 例えば、企業の経営方針や販路、歴史や地元での雇用状況、経営者の資質や事業承継などがある。

 そして、ここで重要となるのが将来の計画である。

 この部分をいかにアピールできるかが重要となってくる。

 もちろん出入りの担当者には話すことだが、評価を審査する担当者までその情報が伝わるのかどうかは、話だけでは難しい。

 そのため、しっかりとその情報を書面、具体的には経営計画を策定し、現状を分析し、将来へ向けてこのように改善していくといった計画、そして、計画に基づいた返済計画をしっかり示すことが重要なのだ。

 そして、経営者本人の誠意も重要といえる。

 多くの中小企業の場合オーナー経営者が多く、例えば企業は苦労しているが、そんな中経営者はしっかりと役員報酬を取り、個人資産も十分にあるなどといったケースの場合、あまり評価はされない。

 もちろん、経営者にも個人の生活があるので、何から何までというわけではないが、金融機関へ向けて、誠意を示す、または経営責任の一部を果たすといった意味でも重要になってくる。

 最後に、最も重要なことは、上記のような数字に表れない努力をしっかりと周知し認知してもらうための方策を打つこと。

 具体的には、決算書を金融機関へ提出する際、その中に経営計画書をしっかり盛り込み、将来ビジョンからそれに基づく返済計画まで示すことである。

 そして、定期的に経営計画との誤差を確認し修正し報告するといったように誠意を示す。

 これにより、金融機関の印象もかわり、評価にも影響が出ると言われている。

 これにより、資金調達を有利に進められるかもしれない。

 次回は、今回の発展編として、金融支援による企業再生方法について触れていきたい。

第401回 相手を知り、己を知れば 金融機関との交渉 ②

 金融機関の立場を理解して、相手のことも考え、交渉しようということで、前回は企業の借入の際に金融機関側では引当金を積まなければいけないという話をした。

 そして、今回は、その引当金の基準となる債務者区分、いわゆる企業の格付けについて触れていきたいと思う。

 金融機関の引当金の割合は、この債務者区分によって変わってくる。

 その割合は金融機関によってまちまちではあるものの、その評価方法はほぼ決められている。

 それは、金融庁が決めた『金融検査マニュアル』に基づいて行われ、そして、その評価のほとんどが決算書によって行われる。

 その評価方法の一部を、評価の順に従って紹介していきたい。

 まず、評価の第一段階において、決算書に基づく定量分析が行われる。

 いわゆる数字での判断である。

 例えば、自己資本比率といった安全性についてや、経常利益増加率といった成長性、債務償還年数などの債務返済能力について分析が行われる。

 この第一段階において、概ねの債務者区分が決定する。

 その後、数字の上には表れない第二段階において、経営者の資質、技術力や販売力といった部分が分析され、そして第三段階で返済能力、そして経営責任能力としてオーナーの資産力や過去の返済実績などが分析され最終的な債務者区分につながっていく。

 しかし、前述のとおり、多くの場合は決算書による数字の分析で概ね決まってしまい、その後の段階で債務者区分が大きく変わるということは稀なケースと言えるであろう。

 ただ、稀なケースとはいえ、決算書の数字のみで判断されるには厳しい場合、この第二・第三段階の判断を大きく加算してもらう現実がある。

 そのための工夫と対策が必要になる。

 それは、決算書をそのまま提出するのではなく、もちろん、利益を水増しするなどの粉飾や、法を犯すことを行うのではなく、数字上に表れない部分を、評価の第二・第三段階で大きく加味してもらえるようにする金融機関側に伝えること、そして理解してもらうことである。

 その具体的な方法の一つとして、経営計画の策定などがある。

 次回は金融機関の評価を上げるにはどのようにしたらよいのか、その経営計画も含めその具体的な手法についていくつか取り上げていきたい。