第436回 経営者に最も必要なことは②

 別の要件で旅館を取材しているとき、銀行の方が社長に言い寄っている場面を目にした。

 『社長、1泊12,000円のお客様から利益はいくらありますか。』

 『このお夕食にはいくらかかってますか』

 『今日働いてる方は総勢で何名ですか』

 まくしたてるように銀行の方は社長に次々と質問するのだが、社長の答えははっきりせずあいまいなものばかり、隣に同席している経理責任者に聞いて答えているという光景であった。

 おそらくこのような状況は決して珍しくないものなのであろうと思われる。

 社長業とはマネジメントであり、その管理の方法の一つが数字なのだから、把握しないことには計画が立てられないというのである。

 では、どのようにしたらよいのかということであるが、以前もここで書かせていただいたが、利益を上げるには2つしかアプローチがない、“売上をあげる”“経費を下げる”である。

 こまかくに見ていくと、売上を上げるには、数量を増やす、単価を上げるという切り口があり、経費では、原価を下げる、固定費を下げるという切り口がある。

 これを踏まえた上で、数字を見ていくこと、それを基に計画を立てることが必要になってくる。

 そして、それを基に各部門ごとが動くことによって円滑な業務や計画通りの利益を生み出すことができるのである。

 これができないと、いくら宿泊客が増えても、経費が掛かりすぎていて増えれば増えるほど赤字になるといったことになりかねないのである。

 では、どのように管理したらよいのか、それはそれぞれの業務を社長や経営陣が把握していることが大切になってくる。

 例えば、よくありがちなのが、調理部門が“聖域”になってしまっているケースである。

 調理は献立作りから調理長にすべて任せている。

 そのため、仕入や調理器具、皿にいたる所まで調理長が決済権を持っている。

 こういった場合、調理長の意向いかんにより原価が大きく変わり、とてもマネジメントできない。

 しかし、経営者が調理を直接行えるわけではないというジレンマが生じる。

 そのため、社長はマネジメントするために、仕入の一つ一つまで把握しなければとまではいかないにせよ、献立の決定等の決済権は社長が把握するべきなのである。

 同様に客室係等も同じである。

 例えば新人を入れるかどうかも業務効率が優先されがちであるが、経費の面もしっかり社長が踏まえなければ話ができないのである。

 厳しい言い方になるかもしれないが、従業員サイドはお給料がしっかりもらえていれば良いと思うことが多く、その上さらに業務が楽になればという視点での話が多い。

 そこをしっかり、必要なところに必要な経費を掛けられるようにするためには、社長が数字をしっかり把握し、業務を把握し、話ができるように、根拠裏付けができるようにならなければいけないのである。

第435回 経営者に最も必要なことは

 経営者に最も必要なことはと考えると、ありすぎてとてものせきらないのが実際であろうし、100人いれば100通りがあってしかるべきである。

 しかし、根本に備えておかなければいけないもの、素養といったところは共通するのではないだろうか。

 今回は、経営者に必要なことについて触れて、本当にたくさんあるのだが、今回は2つに絞っていきたい。

 1つは『数字に明るくなる』ということである。

 財務諸表がしっかり読めることがマネジメントの第一歩なのである。

 自社の強み弱みといったところは、感覚などで把握しているケースが多い。

 しかし、実際にあった話だが、当旅館は料理が売りでという旅館があった。

 確かに料理はおいしく、先週まで書いていた郷土色や旬といったポイントもしっかり押さえており、なんとも印象深い料理なのだ。

 しかし、料理原価を調べると宿泊費の50%をも占めている。

 当然だがこれでは、旅館経営として成立するわけもない。

 大切なことは、状態、歴史等から自社の強み弱みを抽出することも必要だが、数字の上から判断するということも決して忘れてはいけない。

 多くは顧問税理士等にお願いをし、説明を受けていることであろうが、基礎知識が無ければ何も理解はできず、右から左ということもあるのではないだろうか。

 そして、顧問税理士等の先生も常に自社内にいるわけではないので、タイムリーな分析を行い、把握するには、経営判断できる人物、つまりは経営者が数字に明るくなければならないのである。

 そして2つ目は『ジェネラリスト』になるということである。

 ジェネラリストの対義語が『スペシャリスト』になるということからもわかるように、ジェネラリストとは、その分野に精通している人物ということではなく、すべての範囲を網羅的に理解・把握しているといった意味になる。

 現場に置き換えて考えてみた場合、前述の会計(経理)も含まれるのだが、例えば、調理部門。

 経営者自らが料理の腕を振るう必要はない。

 料理は専門のスペシャリストにお任せすればいいのである。

 しかし、調理部門も管理しなければ経営にならない、管理するためには技術や腕ということよりも本質を理解することが大切なのである。

 このように経営者は各部門において必ずしも凄腕を発揮する、というのではなく、それぞれの部門において最高の結果を残せるように管理するということが必要であり、そのためにはすべての部門のことをしっているジェネラリストということになるのだ。

 次回は事例も含めこの数字とジェネラリストということについて掘り下げていきたい。