第475回 事業承継の話

 前回、事業承継について触れたので、引き続き今回もその話をしたいと思う。

 企業はゴーイングコンサーンといい、半永久的に継続しなければいけないとされている、経営者の年齢や経営手腕に関わらずである。

 そのため、言わずと知れたことだが、後継者へと代々受け継いでいかなければいけない。

 そこでスムーズな事業承継が必要となってくる。

 しかし、昨今の事情をかんがみるに、日本の中小企業の実に60%以上が後継者が居ないという状況にあるのである。

 そのため後継者問題はいまや日本の中でもっとも深刻なビジネス問題として位置づけられる。

 そのため後継者問題をどのように解決するかが大きな問題となっている。

 もちろん、これは旅館業においても深刻な問題なのである。

 そのための解決策を紹介していきたい。

 一つの手段としてあるのが、親族以外に後継者を指定することである。

 例えば、大企業であれば、経営者イコール血縁者とはならないケースが多い。

 もちろん株主の意向というものがその決定に大きな影響を与えることは言うまでもないが日本の中小企業の場合、経営者イコール筆頭株主というケースが多いそのため、なかなか血縁以外に後継者ということが見つからない。

 そのため、一つは従業員の中から次の後継者を選ぶということだ。

 そしてもう一つの手としては、最近ケースとして多いのだが、経営者自身を派遣するという人材紹介会社も存在する。

 なかなか難しいケースではあるが、選択肢の一つとして経験豊かな経営者を迎え入れるということもあるのである。

 そしてもう一つの手段としては会社ごと後継の会社を見つける、いわばM&Aという手法である。

 この手法の場合経営者は現場に必ず残るということではないが、会社自体は継続する。

 また、異業種との提携などより新しい可能性を生み出すケースもある。

 いずれの場合にせよ、ホテル、旅館は地元で大きな雇用をうんでいる経済の主体であると位置づけられる。

 そのため、事業承継をスムーズに行っていくことは地域経済において非常に重要なのである。

 仮に事業承継に失敗してしまうと、地域経済において大きな打撃を与えてしまう。

 事業承継は確かに簡単なことではない。

 だからこそ、しっかりと来るべき時に備え準備しておく必要があり、そのための選択肢を数多く用意する必要があるのである。

第474回 相続税の話

 最近、よく『相続税対策』といった文字を目にする。

 というのも、2015年1月1日より、相続税が大幅な改正になり、今まであった相続税計算の控除額が大幅に引き下げられる。

 つまり、感覚的には増税ということになる。

 そのため、相続税対策をしておく必要があるということで、マスコミを始め様々なところで取り上げられている。

 実は会社経営にとっても非常に密接な関係にある相続税について少し触れて行きたい。

 本来的、会社が法人であれば、会社の資産は会社の物であるため、その部分については相続税というものは発生しない。

 しかし、個人の相続税を考える際に会社と密接な関係にあるものを2つほど紹介していきたい。

 税法上、様々な表記・名称があるが、ここでは、わかりやすくするために簡素な表現を用いることをご理解いただきたい。

 まず、一つ目は、科目の名称は様々ではあるが、その他借入金、つまりは、社長からの個人的な資金提供の部分である。

 会社の運転資金や資金繰りといったものが厳しきなった場合、社長の個人財産を会社に入金するケースである。

 これは会社としては負債と言いながらも、実際の現場での返済の優先順位としては低い。

 また、役員報酬を設定しながらも受け取らなかった場合、役員借入金として同じような処理になる。

 この借入金は会社からすればありがたいものなのだが、会社から返済してもらう権利という形で個人では財産となり、万が一の場合では相続財産となってしまう。

 中小企業の場合、この部分は非常にケースとして多く、見逃してしまいがちである。

 もちろん、対策や方法は様々あるので、会社に多く資金投入している社長は注意する必要がある。

 もう一つは、自社株ということである。

 自社の株の額は、資本金の出資額ではない、会社の今持っている資産・財産によって変動するものなのである。

 特に業界の体質的に、ホテル旅館業界では、借入金の額も大きいものの、土地や建物といった資産を多く所有しているため、自社の株の評価額はびっくりするほど高くなるケースがある。

 その場合、社長がこの株を後継者、身内に譲る際に、やはり財産の移動が発生し、万が一の場合は相続税大正となってしまう。

 いずれも、会社の事業承継の際によく見かける案件である。

 ゴーイングコンサーンに基づき、会社を存続させなければという観点から考えるに、事業承継問題は優先順位の高い問題でもあり、同時に経営者個人と考えた場合でも、家族の為にしっかりと事業承継、相続のことを考えて行かなければならないだと思われる。

第473回 価格設定と値上げ

 アベノミクスの影響なのか消費の増える傾向の中、一方で円安や新興国の需要増などによって食料品を筆頭に様々なものが値上げの傾向にある。

 また、昨今の消費税の増税など、いい話題と厳しい話題とが入り混じる中、価格ということについて考えてみたいと思う。

 突き詰めていくと、利益を上げるためには、売上を伸ばすか、経費を下げるか、またはその両方かという3パターンしかない。

 そのうち、売上に関していえば、売上を伸ばすには数量を増やすか、単価を上げるかという方法になってくるのであるが、問題は単価の設定方法である。

 とくに旅館商品の場合、そのサービスに対し単価が設定される。

 もちろん料理などの場合仕入れ値から逆算しその単価は比較的設定しやすいのではあるが、それはあくまでも経営サイドの話であって消費者サイドの話ではない。

 以前この場で記載させていただいたハウステンボスを見事に再建させている澤田氏の話を引用させていただきたい。

 澤田氏は元々、HISやスカイマークといった企業の創業者で、いずれの企業の特徴も、他の同業他社にくらべ価格設定が低い、つまり安価に設定しそのパフォーマンスでシェアを伸ばしてきた企業である。

 そんな澤田氏がハウステンボスの再建に乗り出した際に、同じように入園料の価格を下げ来場者数を増やすといった手法に着手した。

 通常の営業価格よりも下げたプランを様々用紙、中には夕方以降は入園料を無料にするという手に打って出たのである。

 その結果、来場者数はどうなったかというと、大きな変化は見られなかったとのことだ、入園料を無料にしても。

 現在ハウステンボスは創業以来18年連続だった赤字から脱却し、今期は最高収益をあげ経常利益ベースでは本体であるHISを上回るとの話だが、その要因は来場者数が年々右肩上がりに伸びているということと、そして、価格は今は下げていないとのことだ。

 ではなぜ、価格を下げずに来場者数を伸ばしているのか。

 それは、ハウステンボスの付加価値、訪問することによって得られる満足度の問題なのである。

 偉そうな言い方で恐縮だが、ハウステンボスはお金を払ってでも行きたいと思わせる場所なのである。

 以上のことより考えるに、価格は消費者目線で、お金を払ってでも味わいたい、経験したいと思わせるものに対する対価なのである。

 当然のことながら、価格を上げるということは至難の業ではあるが、それに見合う付加価値を提供し、それ以上の満足度をお客様に味わってもらうということをしっかり構築すれば、できなくはない大きな手法なのではないだろうか。