第284回 顧客のストレスを取り除くという発想
普段、顧客に提供しているサービスの内容について常に検証しメンテナンスを繰り返している中規模旅館の事例を紹介したい。
この旅館の経営者は、日常業務がマンネリ化することをとてもおそれている。このマンネリ化がスタッフの気の緩みを生み、顧客が離れていく根本原因のひとつになると考えている。
したがって、毎月一回、「サービスメンテナンスミーティング」を開催し、サービスに関する軌道修正を行っている。
具体的な方法は、館内アンケートやネット系の口コミサイトの書き込みの総点検からスタートする。また、現場の各責任者からあげられた課題や顧客の要望を含め、ひとつひとつ検証をしていくのである。
その際、大きな基軸となっているのは「顧客のストレスを取り除く」というキーワードだ。
例えば、以前この旅館の高額個人客に対しては、チェックイン時に例外なく抹茶を提供していた。このサービスは旅館の格式を高め、顧客にとっても満足してもらうものであると思い込んでいた。抹茶の提供サービスがブームになりかけたときのことである。
ところが実際には茶道をたしなむ顧客はごく一部。不意に出された抹茶を前に戸惑い、スタッフが見ていないときを見計らって飲み干すケースが多かった。
現場のスタッフからの指摘を受け、ウエルカムドリンクをチョイスしてもらうようにしたところ、顧客から笑顔が生まれるようになったという。
旅館が良かれと思って実施しているサービスや、旅館の都合で日常的に繰り返しているオペレーションにはこの手のものが多い。
いつ客室係が部屋に来るかわからないというストレスに対しても、ご案内時とフトンを敷く時以外は、依頼がない場合を除き伺わないという案内を告知することとした。
「癒しの空間でリフレッシュ」とうたいながら、じつは正反対のことをし続けていることに気づかない場合が結構ある。
顧客にとって居心地のいい空間と時間というのは、決して画一的なものではない。人によってあるいは時と場合によって異なるものである。だから臨機応変の対応も含めたサービスをいつも意識しているのである。