第258回 我が宿の特性をはっきりと告知する
雪国のスキー場に隣接する旅館に行った。施設は古く二昔前のものだ。客室は狭く、大浴場にはスキー客用のコインロッカーが設置されている。到底現代のおしゃれな旅館とは比較にならないものである。
かと言って設備投資をするような財務体質ではないという。複数のエージェントと契約は結んでいるものの、企画商品に載せてもらうことはできない。周辺の名の知れた旅館からあふれた客が送客される状況だという。
これはかなり厳しい案件かなという思いでとにかく一泊した。ところが予想を見事に裏切られたのである。
一泊二食で一万円にもかかわらず、食事の内容が良いのだ。聞けばきのこや山菜は、朝スタッフが周辺の山に捕りに行ったものを調理している。また、既製品はいっさい使っていない。女将を中心としたスタッフの気遣いがよく、笑顔が絶えない。
ところがこんなすばらしい旅館の提供商品をホームページはもちろん、来館した顧客にも告知していないのである。
その理由を女将に問うたところ、返ってきた言葉は「当たり前のことだから」だった。
とんでもない。かつて日本旅館の文化としてのこだわりが音を立ててくずれ、見栄えと効率化と収益性が先行し、パフォーマンスで顧客の満足度を上げようとする傾向が強いのは周知の通り。このようななか、それはちょっと違うよ、という頼もしい考え方を実践していることは、はっきりと告知すべきである。
聞けば先ほどのエージェントが積極的に送客している旅館の食事は、大部分が既製品だとのこと。だから仕入れの段階でどこの産地?といった会話ではなく、どこの商品?だそうだ。 他の悪口を言わないこの女将は多くを語らないが、我が宿のいいところ、悪いところははっきりと告知することで納得した。
これからは、施設の古さや雰囲気のなさも事前に公表し、そのかわり料理やサービスの取り組み方についても告知することとした。
何が良いか悪いかはあくまでも顧客の判断である。だから我が宿の良さを見直し、これをさらに高め、そのポリシーを大いに告知していくことで、顧客の選択肢が明確になる。