第293回 零細旅館が本気で取り組む
このコラムの内容は、すべて自分がコンサルティングにかかわった事実に基づいており、それぞれの現場でおきている課題と解決の方向性は、別の旅館にも通じるところがあるのではないかという思いがある。
そのモデルとなった旅館は規模の大小にかかわらず課題は多いが、積極的な経営展開をしており、ある程度名の知れた旅館が多い。
しかしながら、その陰に隠れて目立ちはしないが、家族と繁忙期に若干のお手伝いだけでまかなっている零細旅館が数多く存在する。
このような旅館はコンサルタントとの接点は少なく、せいぜい地元商工会や旅館組合が主催するセミナーや講習会に参加する程度だ。ふだんはひたすら自分の旅館に向き合っている。
このようなタイプの旅館が実は旅館業全体の底辺を支えており、常連客を中心とした直客によって成り立っているのである。
その実態は商店街の小売店と同様、減価償却も終わり、多額の借入もないが、売上絶対額が低いため、子どもも事業を引き継ぐ気がない。だから自分たちが食べていける範囲でなんとかつないでいけばいいと考えている経営者が多い。
そのような人たちは、自分たちの代で旅館経営は終わりだと考えている。何代か続いた旅館業を廃業しなければならないのは、時代の流れとあきらめるしかない、と。
一方、同じような経営環境にありながらも、
旅館業を続け、客がまた来たい宿であり続けたいと毎日懸命に努力している経営者もいる。
ところがその望みをかなえるための具体的な方法がわからず、悩んでいるという。現状は客数が年々減少し、設備投資もできない。自館よりも安い料金ながら立派な施設の旅館が回りに数多く存在するという。
このような経営環境の中では、経営者と客が常に近い位置にあるメリットを最大限に活かし、居心地がよく、ほっとする旅館であることが唯一の生き残り策だ。
それが具体的に何なのか?金をかけないで何をしていけばいいのか?という取り組みがスタートした。
旅館業の原点であるもてなしの基本を作り上げる機会を、この経営者は本気で実現しようとしている。