第296回 不易流行と変化力

 ネット系での口コミ評価がとても高いにもかかわらず、集客で苦戦している旅館がある。売上高はバブルピーク時の三分の一にまで落ち込んでしまっている。

 ここ二十年の推移をたどってみると、当時は高額の個人・グループ(団体)ともにコンスタントな集客があった。そのうちグループ(団体)の入り込みが極端に減少してきた。個人のリピーターは健在だったが、年月を経て高齢化とともにその数も年々減少していった。

 これらは外部環境の変化であり、仕方がないものと考えよう。しかしここで重要なことは、新規顧客の集客がほとんどできなかった事である。

 エージェントの商品を見てもわかるように、特に小規模旅館では新しい施設が増えてきている。また、大胆なリニューアルをして営業展開そのものを刷新していった旅館もある。

 このような中、この旅館はあまりにも変わらなかったのである。特に新規顧客の取り込みに関しては、ユニークさや斬新さが必要になってきている。

 それが今度この旅館に泊まってみようかという気にさせる、具体的な要因になるのである。

 マスコミに言わせると、旅番組での旅館紹介においては、「絵」にならない旅館は避けるのだそうだ。つまり、いい旅館だと感じるメンタルなものは、「絵」にならない。具体的にこれがあるから、すばらしい旅館だと共感するものがほしいのである。

 これは新規顧客の囲い込みにも言えることである。

 だから、今こそ旅館の「不易流行」、つまり変わっていくものと、変わらないものを見極め、旅館自らがこの意識でもって仕分けをしていかなければならない。

 今回事例にあげた旅館では、不易の部分の評価は高い。しかし、それだけでは必要な集客アップの要因にはなり得ていない。ならば、さらにつっこんだ対象顧客へのアプローチをどうしていくか、徹底的に検証し、実践していくことが不可欠だ。

 旅館は自ら変化していかなければ、現状維持ではなく、確実に衰退する。この変化する力は、とりもなおさず今の顧客にもっといい旅館商品を提供しようとする、経営者の意思の表れに他ならない。