第297回 わが旅館の存在価値を改めて問う
あるシティホテルの経営者と話す機会があった。そこでの話題は、乱立するシティホテルのなかで、我がホテルが存在する価値をどのように作り上げていくかであった。
たまたまそのホテルでは、メインダイニングでフランス料理のフルコースが360キロカロリー、塩分2.2グラム以下に限定されたメニューを開発し、糖尿病等で食事制限がある顧客に対する商品を提供しているのだそうだ。
しかもおいしくて満腹感がある料理ということで、現場では大変な苦労と試行錯誤があったという。
これがなぜシティホテルの存在価値と結びつくかである。それはシティホテルの面目にかけて、ごまかしができないということに加え、継続することによって、そのホテルならではの営業理念を発信し続けることにあるからだそうだ。
ホテル全体の売上から見れば、この取り組みは収支面では完全に赤字だろう。しかし、採算度返しまでしてこのことをやりぬくことにより、新たな客層から支持を得たことに、ホテル全体が肌で感じることができた。
これがいい方向に波及し、スタッフの自信につながっていくのだという。
たしかにホテルの料理やサービスは代わり映えがしない保守的なものと顧客が捉えているとしたら、結局は立地と料金でホテルを選ぶ基準しかないということになる。
この話しをききながら、旅館にも全くもって当てはまるのではないかと感じた。
その背景にはいろいろな理由があるにせよ、顧客から見れば、結局はどこの旅館もたいした違いはない、という評価を受けているとすれば、これも深刻な話である。
今こそ規模の大小や立地に関わらず、ひとつひとつの旅館にとって、その存在価値を明確につくりあげていくことが、経営上非常に重大なポイントである。
そんな面倒なことを考える暇があったら、集客でも手伝えという声も聞こえてくる。しかし、一過性の集客効果しかないイベントや商品企画を続けるだけでは、その旅館に客が来る意味がないではないか。
さあ今こそ、わが旅館の存在価値をつくりあげ、明確にアピールしていこう?