第298回 食器破損の改善をはじめて
以前、食器の破損が多い旅館について記述したことがある。
今回はその続きをお知らせしたい。
あるとき、食器の破損が多いという声が、経営者の耳に入った。現場の改善に積極的なこの社長は、早速用度責任者を呼び、食器の破損実態を調査させた。
その結果、一週間での破損総数は何と五十個をこえていた。ダンボールに入れられた破損食器の山を見た経営者は、すかさず破損の現場と原因を突き詰めるよう、責任者に指示したのだった。
数日後、責任者は食器の洗浄方法やコンテナの扱いも雑なところがあり、洗い場での破損の可能性があると見た。しかし、現場担当者に言わせると、洗い場に来た段階で、すでに食器の破損が多数あるという。
この旅館では、部屋出し、宴会場、レストランと各方面から食器が次々と届く。それぞれの現場を調査したところ、残飯と一緒に食器を詰めている、食前酒のグラスと湯豆腐用のなべをいっしょに放り込んでいる、コンテナの中に「遊び」がある状態でぞんざいな扱いをしている等の実態が目に留まった。
このようなことが毎日おこなわれていたため、毎週五十個を超える食器を破損し、どこにも報告なく廃棄されていたのである。
一方でコストダウンをスローガンにかかえながらも、このようなザル状態の現場の存在に、社長は愕然とした。
そこで数名のプロジェクトチームを作り、現場改善に取り掛かった。
当初はどの部署のどの段階で破損が生じたのかを調査しようとしたが、正確につかむことは困難だった。
ならば部署ごとに破損の原因を除去しようということで、残飯の処理をパントリーで実施する事。割れやすいグラスはまとめて扱い、ぬれたタオルをかぶせること。同じ食器類をまとめてコンテナに入れることを徹底指導した。
当初は面倒だという声が一斉に上がったが、破損した食器の現物とそのおおよその金額を毎日事務所前に提示し続けた。その結果、一ヵ月後には何と半分以下に減少したのである。
各現場ではほんの少し手間が増えた。しかしそのことで次の過程の仕事が格段に楽になり、破損も激減した。その結果を公表したところ、一番喜んだのは何と当初文句を言った現場のスタッフたちだったのである。