第302回 零細旅館のよさを引き出す取り組み
以前このコラムでも述べたが、今の旅館業を支えているのは、名の知れた旅館や
エージェントが送客する規模の大きい旅館ばかりではない。
むしろ、マスコミに登場することもなく、細々と家族で経営している実に多くの旅館が
ある。
このような類の旅館は、提供商品に対してアドバイスを受けるというような機会は
ほとんどない。
しかし、その旅館が金融機関から借入があり、経営状況が年々悪化してきたとする。
金融機関としては、何とか経営を上向きにして、約定どおりの返済をしてほしいと
考える。
そこで、担当の金融マンからアドバイスを受けるケースは多い。
しかし、そこでは「課題と解決の方向性」は示せたとしても、具体的に何をどうしたらいいのかは、畑違いの金融マンでは何もできないのが常である。
そこで金融機関や旅館組合、観光協会等、その旅館を取り巻いている関係者が、
それぞれの旅館を客観的に見て評価し、埋もれているいいところを見つけ出して
アピールするというしくみをつくって見てはどうかと思っている。
なぜこのようなことを言うのかというと、縁あって公的な支援事業で、零細旅館の
継続指導を実施している。
その旅館は長年固定客を中心に集客を図ってきたのだが、年々少しずつ減少し、
その穴を新規客で埋めていくことができずにいた。
その理由は、新規顧客をその旅館に呼び込む手立てがなかったためである。
ホームページは業者任せで、数ある旅館の中での優位性はない。
でも、その旅館のよさは経営者夫婦の接客のあたたかさと、実に手間ひまかけた
手作り料理なのである。
そのことを当人たちは全く気づいていなかった。そしてその中身をヒアリングし、体験することによって、見込み客へアピールするキーワードが見えてきたのである。
このようなちょっとした機会をつくり、その旅館のよさを見つけ出すことは、コンサル以外の人だってできることだ。
多くの旅館に気づきの場面をつくるためのしくみを、各地で展開していくことにより、今まで光が当たらなかった零細旅館にも、本来持っているその旅館のよさを引き出すことができるかもしれない。