第303回 あきらめる前にもう一度やるべきこと
経営が厳しい状況にあるという旅館経営者から相談を受けた。
売上はバブル期のピークから見ると、約三分の一に減少している。キャッシュフローに苦慮し、金融機関へリスケを打診し、粘った交渉の結果ようやく半年の猶予を得た。
たしかに猶予期間は返済分のキャッシュが浮く計算になるが、要はその猶予期間中にしっかりと建て直しができるかどうかにかかっている。
猶予が決定し、ホッとしていると、すぐに六ヶ月なんてすぎてしまうものである。
このような状況の旅館は、総じて経営状況の悪化とともに、提供商品のレベルダウンが起きている。
その原因は、スタッフのモチベーション低下に他ならない。
ではなぜモチベーションが低下するかというと、経営者が日々の資金繰りや人繰りで振り回され、スタッフが元気に働く環境と意識付けを行うことができないでいるからだ。
その経営者は、わかってはいるが日々の苦悩がそのまま顔や態度に出てしまうという。その波動がたちまち全スタッフに届いてしまうのである。
この負のスパイラルを止められるのは、経営者当人以外にはいない。しかし、悩めば悩むほど何をどうやったらいいのか分からなくなってしまう。
あせっても悩んでも、結局は何も解決しない。このような状況になったときは、この先わが旅館はどうなるのかと考えるのを一旦やめ、本来、自分はこの旅館をどのような状態にしたいのかをもう一度思い描いてほしい。
つらい日々が続いてからは、旅館の理想像などとは無縁になってしまっていたのではないか。
だから、もうだめだ、打つ手はないと思うと、現実にそのとおりになってしまう。
しかし、唯一の可能性は、この環境下にあっても理想の旅館を描き、それを達成させるための計画を緻密に作り上げることから再スタートすることである。
経営者であれば、客に心から喜んでもらうにはどうしたらいいかを具体的に実践できるはずである。
これを何が何でもやりきると宣言してしまうことだ。外科的手術野の再生プロセス議論は、それをやりきったあとでいい。
何もアクションを起こさなければ、悔いが残るだけだ。