第306回 わが温泉地の再生をあきらめるのか?
数年前、首都圏近郊のある温泉地に対して活性化の提言を取りまとめたことがある。
その温泉地はかつて団体旅行が華々しかった頃は賑わいを呈していたが、その後地すべり的に入り込み数の減少傾向が進み、多くの旅館が厳しい経営状況にあった。
このまま時が過ぎていくと、この温泉地全体の灯が消えてしまう危機感が漂っていた。
そこで個々の旅館のレベルアップとともに、地域で客を呼び込むスキームを確立し、全体で取り組んでいくことが急務であるという方向性を示した。
当然具体的な行動プロセスをセットで提示し、これからが再スタートだと位置づけた。
しかしながら残念なことに、その提言書は観光協会や各旅館の事務所の棚におさまったままのようである。
この地では年に数回の決まりきったイベントの開催と単発のキャンペーンに留まっており、客が入る時期は限定されている。
日中、温泉街を散策すると、あるじのいない飲食店や土産店、旅館の残骸がそのままされている。
せめて更地になればいいが、土地の権利の関係でちぐはぐな景観が客を迎えている。
この地は歴史ある温泉地で、昔からの派閥が存在し、政治をはじめとして何かと地域が二分されてきた経緯がある。
だから普段表向きは仲がよさそうに振舞っていても、どちらか一方が何かをやろうとすると、その中身はともかく、誰がその意見を言っているかによって地域の体制が決まってきた。
我々部外者から見れば、そんなことを続けていたら、両方とも生きていけなくなるという警告を突きつけたのであるが、残念ながら結果としてそれを聞き入れることはなかった。
数年後その地は、さらに旅館の倒産や廃業が続き、一部外部資本が入り込んで営業をしている旅館はあるものの、地域の魅力がますます乏しいものとなってきている。
当時青年部を中心として、これから数十年を見据えたビジョンを自ら作り、実行していく以外に方法はないと、ひざを交えて語りあったが、その後実行する途中で、はやばやとあきらめてしまったのである。
白旗を揚げた彼ら自身、一番後悔が残るだろうに。