第308回 顧客の価値基準の変化を把握しているか

 先日、知り合いのフレンチレストランオーナーシェフから、洋食レストランへの業態転換の相談を受けた。

 地方はもちろん東京でも正統的なフランス料理を提供するレストランは経営が成り立ちにくく、ブライダルや創作フレンチ、和食とのコラボといった新展開をしなければ客がついてこない状況にあるという。

 この現象にはいろいろな背景があるが、中でも大きいのがメインターゲットの高齢化にあるという。

 今、このレストランの中心客層の年齢は五十代後半から六十代前半だという。

 二、三十代の客はランチには来店しても、夜の来店はまず見込めないとのと。

 このオーナーシェフは、これから五年先までを想像すると、今の客層が自然減し、経営が成り立たなくなるのは必至だとの見通しをたてた。

 そこで客単価は大きく落ちるものの、幅広い客層に間口を広げた洋食という分野に転換し、しかもフレンチシェフがつくる本格洋食という特色で差別化を図る目論見だ。

 今までターゲットとしていた客層が時の流れとともに減少し、次の世代が全く時代感覚や価値観が異なるため、今のままのスタイルでは将来が見込めないというのは、旅館経営にもそのままあてはまる。

 しかし、これから五年先のスパンで人々のライフスタイルの変化を予想し、旅館という業態や提供サービスの中身を検討している旅館は非常に少ない。

 それどころか、五年前と現在は確実に客が変化しているのにもかかわらず、旅館が何も変わっていないという実態がある。

 旅館が今後も存続していくためには、変わらない根幹の部分はともかく、変わっていくべき部分が相対的に多いのではないか。だが、今までの経験や実績、前例をベースに物事を考えたり判断したりする癖があると、時代の波に取り残された旅館になってしまう。

 レストランも旅館も来店してもらえなければ何も始まらない。どんなにおいしい料理や伝統ある店であっても、客がわざわざ利用する価値が見出されなければいけない。

 今後の経営戦略はこのような顧客の価値基準の変化に基づく行動パターンを機軸に意思決定されなければ、判断を誤ってしまう。