第312回 「まずまず」から「ダントツ」への脱皮

 ある大規模旅館でモニリング調査を実施した。

 これは継続コンサルティングの初期段階で行う実泊による覆面調査のことである。

 単なるあら捜しではないかという批判も聞くが、われわれはむしろ対象旅館の良さや、伸びる可能性がどこにあるのかといった観点から旅館を見ていくことにしている。

 悪いところは顧客のアンケートや口コミサイトですでに指摘されており、これはその背景や原因をしっかりと突き止め、根本的な改善を図っていけばいい。

 そもそもなぜコンサルティングの依頼があったかといえば、年々売上高が減少し続け、金融機関の支援体制もそろそろ限界の時期に差し掛かってきているなかで、この旅館の再生が成り立つ可能性があるかどうかを見極めることが必要だったからだ。

 さて宿泊後の率直な感想は、「まずまず」の旅館であった。施設はところどころいたんではいるが、清掃はきちんと行われ、付帯部門もそれなりに充実している。

 料理は地元の食材を積極的に取り入れ、話題性のある提供方法を確立している。サービスは特に男性のきびきびした接客が印象的であった。
 
 つまり、細かいことはいくつか気になる点はあるものの、支払った料金に対して違和感を覚えることはなかった。
 
 ではなぜ売上高が減少し続けているのか。

 これは多くの中・大規模旅館にもいえることだが、リピート客の減少、団体客の減少、宿泊単価や消費単価の低下傾向といったことが数字を追えば一目瞭然だ。

 この点についてはいまさら説明する必要もないだろう。
 
 今までどおりまずまずの商品を提供し、既存エージェントへの営業回りをしているだけでは、利益を生み出し、キャシュフローがまわる体質には転換できないということは明らかだ。
 
 課題は顧客があの旅館に行ってみたい、またまたリピートしたいという強い気持ちを抱くようなダントツの商品力がないことである。
 
 他を圧倒するものを作り上げる場合、その旅館が持っている潜在的な力を、選択と集中のパワーを持って一気に作り上げなければならない。
 
 だからこそ、その旅館ならではの良さにこだわるのである。
 
 今まさにまずまずからダントツへの脱皮が必要不可欠な時代なのである。