第316回 軌道修正する機動力
二ヶ月ほど前、フレンチレストランが洋食の店に業態転換しようとするコラムを書いた。
この店がこのほどリニューアルオープンした。
震災直後はフレンチの予約客がほぼすべてキャンセルとなり、シェフもこんなときにフレンチでもないのだろうと、あきらめていた。
それから三週間。
オープンのタイミングは果たしてどうかとの心配をよそに、昼・アイドルタイム・夜ともに高回転をしている。
最大のセールスポイントは、本場三ツ星レストランで修行したフレンチシェフが作る定番洋食。味は全く別物に仕上がっているのに、価格はランチセットでも千円前後。
単品モノはもっと手軽な料金だ。
このコストパフォーマンスの良さに、フレンチの時代には見向きもしなかった新たな客層が飛びついてきた。
この店のシェフは今までフレンチというスタイルに固執してきたことが、自らの首を絞めていたことに改めて気づいたという。
たしかに譲れないこだわりの部分や、シェフとしてのプライドもあっただろう。
しかし、ビジネスとして飲食店を続けていくことができなければ、何にもならないことも事実だ。
地方都市にあって、ハレの日に利用する客しかいなかったフレンチが、気軽にランチで利用できる店に転換したことにより、多くの客に確実に支持を得たのである。
旅館の場合、どうしても器が大きいため、町場のレストランのように簡単に軌道修正ができないと考えがちだ。
しかし、顧客が以前と比べて客足が遠のいた理由を、冷静に客の立場で考えれば、なるほどと思うところがたくさんでてくる。
だからその理由を旅館自らが、ひとつひとつつぶしていく以外に方法はないのである。
客が多く集まる店というのは、旅館であろうと飲食店であろうと、明確な理由がある。
しかし、わが旅館がそうでない場合に限って、軌道修正ができない理由ばかりをあげて、結局なにもしないで終わってはいないか。
外的な環境はいずれかならず変化していく。
いつまでも自粛では、日本の経済が崩壊してしまう。
近いうちに人が動き出したときに、それを受け入れるように今から軌道修正を図る必要がある。
その機動力があるかないかの差が、今後の旅館経営において大きくものをいう。