第320回 地域貢献という役割を担った地方ホテルの例

 このところひとつの企業が単独で事業を継続していくことが困難になることが多い。
 
 そこでいくつかの事業体が連携することにより、新たな商品を作り上げて、新規顧客獲得につなげるという動きが見られる。

 よくある例は、旅館がその周辺の施設やバス・タクシー会社と提携し、セット商品を生み出すという、宿泊と周遊観光の商品化である。

 これは旅行会社のパッケージ商品として古くから存在する形態だが、旅館が中心になって、地域にある今まで観光化されていなかった、一種マニュアックなところを取り入れることにより、全く新しい客層を取り込む動きがでてきた。

 しかしこれも言ってみれば、旅館の商品化におけるバリエーションという発想には違いない。

 これらとはちょっと違った事例を紹介したい。

 当社のクライアントに廃食用油を無料で回収し、これを再利用してバイオディーゼルの燃料にする食品リサイクル事業を展開している会社がある。

 最近、この需要が増え、廃食用油の回収量が足りなくなってきたという。

 そこで知り合いの地方都市ホテルに打診したところ、現状は料金を払って業者に回収を依頼しているという。

 我々の提案に即賛同したそのホテルでは、早速毎日出る廃食用油を専用のタンクに貯え、無料で回収してもらうことになった。

 さらにホテルの従業員の家庭で出る廃食用油についても、ペットボトルに詰め込んでホテルに持ってきてもらうようにした。

 従業員の家庭では、廃食用油を固めて捨てる商品を購入しており、この費用が減るので好評だ。

 さらに今後はホテル周辺の住宅や商店、納入業者、宴会会議利用の地元得意先にも声をかけ、廃食用油の回収量アップにつなげたいとしている。

 これは今までの地方都市ホテルの役割に加え、地域の環境改善とリサイクルに積極的に社旗貢献する企業としての位置づけを、新たに加えることにもつながる。

 商品化のバリエーションを拡大するという発想だけでなく、新たな宿泊業の価値をつくりあげるための連携も、実は身近に結構機会があるものである。