第325回 課題が顕在化したときに
ある旅館の宴会場での出来事である。
訳あって別の旅館から転職してきた接待係りのA子さん。
理解が早く客への対応も良いことから、経営者自らが接待する宴席を担当することとなった。
上座の客に刺身皿を出そうとした瞬間、携帯電話が突然鳴り出した。
どうするかと思いきや、お膳の上まできていた皿を引っ込め、畳の上において、携帯電話を帯の中から取り出して、宴会場の外へ出ていってしまった。
唖然とする経営者たち。
あまりにとっさの出来事であったため、誰も言葉を発することが出来なかったのだ。
幸いにもその席は笑い話ですんだが、経営者一同、翌日には女将も交え大激論となった。
その結果、そもそも現場で起こりうることを想定した決まりごとが無いこと。
だからとっさの場合には、すべて現場のスタッフに判断がまかされ、人によって対応が異なること。
そして多くの場合、客ではなく、自分や旅館の都合を最優先して物事が行われていること。
女将が注意をしても、繰り返す人は決まっていること等が現実の課題として挙げられた。
ひとつの課題が顕在化した場合、それが多くの場面で繰り返されていると見たほうがいい。
この旅館は、現場で起こったこの事件を大問題だと捉えた。
だからハイスピードで改善の手を打ったのだ。
ところが全く正反対に、現場の課題について、適切な手を打たず、クレームを繰り返し受けるものの、結局何の改善も図ることが出来ないままの旅館がある。
当然ながらこの種の旅館は集客が年々減少している。
いくら営業ががんばっても、現場での対応に問題があるところは、結果として経営成績が悪化している。
幹部会議や営業会議を覗いてみると、決まって売上や集客ダウンの実績を指摘し「お前たちが悪い、何とかしろ」と言う類の言葉が出る。
しかし内部の課題を経営者自らが率先して解決していこうとする姿勢が見られないケースがある。
目が届いていないなら、目が届くよう工夫すればいい。
「うちは団体旅館だから」という言い訳で逃げてしまっていては、行き着く先は決まってしまうではないか。