第332回 基軸としての方針を確立する
ある中規模旅館へひと月に一回のペースで訪問している。
そこでは経営者および主な幹部社員とともに、旅館の内部体質の強化を目指してプロジェクトを推進している。
直面する課題解決や営業・販促については日常の会議をもって対処している。
このプロジェクトの特徴は、ここで決まったことをオープンにし、社内の各会議に反映させる仕組みを作っていることである。
また、計画策定と実行においてはスピード感を特に重視し、対応が遅れればペナルティを科している。
この旅館では、もともとスタッフ間の風通しが悪く、隣のセクションが何をしているのかよくわからず、またそれを知ろうともしなかった。
また、ひとつの仕事をいつまでに達成させるということが希薄で、いつもやりっぱなしが多かったのである。
このような繰り返しが、旅館の雰囲気を暗くし、スタッフのモチベーションを下げていた。
経営者はこの旅館の弱点を克服するために、まずは本プロジェクトから、「決定事項のオープン化」と「スピード達成」の二本柱を特に意識したのである。
このコンセプトは何があっても決して譲らないこととしたため、プロジェクトスタッフのなかにはついていけない者も現れた。
今までは「しかたがないなあ」と妥協してきたところだが、今回は二度注意しても改善できなければ即配置転換。
新たな場でも同じ結果であれば退場というプロセスを実行している。
その結果、現場では一時的に人手が足らなくなり、混乱が生じた。
しかし、今までチームワークを乱していた人物がいなくなったことで、精神的なストレスがなくなり、その職場は明るさが戻ってきた。
このような決断をした結果、今までとにかく現場では人数確保を第一優先でやっていたことが、結局客やスタッフにとっても不幸を招いていたことにみんなが気づいたのである。
現場では多くのスタッフが働いている。
ひとりひとり性格やものの考え方は異なる。
だからこそ、職場での基軸となる方針を確立することは重要であり、ものごとの判断基準となる。
これができたからいちいち細かいことに振り回されず、悩まなくなったと、この旅館経営者が語ってくれた。