第337回 クレームの本質を見抜く

 コマ客が多い時期はクレーム発生の件数も多くなる。
 
 この夏はクレーム処理の対応に追われたところも多いようだ。

 よく話題にのぼるのは、クレーム処理の効果的な方法についてである。

 もちろんすみやかに対処し、対象となった顧客の不満を和らげる現場対応は重要である。

 また一方で、現場のクレームや課題を正確にトップが吸い上げ、その原因を分析し、抜本的な改善を図ることも重要な事柄である。

 これを実施しないで、起こったクレームに対処していては、結局同じことの繰り返しとなる。

 ある旅館では、毎日複数の現場で発生する問題や、顧客からのクレーム内容の詳細と対処結果を取りまとめる仕組みを作った。

 それはある現場で起こった出来事は、他の部署でも起こる可能性が大きいという仮設のもと、旅館全体での是正・予防措置をつくりあげていくことを目指した。

 とかく現場での問題やクレームは、その場で隠蔽する傾向にあったため、当事者に対しては責めたりしかったりすることをせず、とにかく現場からの報告を挙げてくることを歓迎するという姿勢を示した。

 その結果、一日に数件の案件が挙がってくるようになった。

 しかしその報告書の中身を検証してわかったことは、報告者が記述した内容と実際の事実とが異なるケースが多かったのである。

 例えば客室から氷のオーダーがあったとき、有料だと回答した結果、不愉快だとした記述があった。

 しかし検証の結果、このケースでは子供の水筒に数個の氷を入れたいというオーダーだったという。

 言葉のやり取りを正確にフィードバックすることは難しいが、このケースの場合は、氷が有料かどうかということではなく、客の立場と要求を正確に把握せず、機械的に返答したことによるトラブルであった。

 顧客の要求とその背景を瞬時に把握することは困難だが、少なくともそういう配慮のあるなしと、それを導き出すヒアリング力がこのケースの最大のポイントだ。

 現場からあがったクレームや課題をそのまま受け止めるのではなく、事実とその背景を可能な限り検証しないと、経営者は本質を見失ってしまうことになる。