第346回 旅館のライフサイクルを考える
商品にはライフサイクルが存在するという考え方がある。
これはあたかも人の一生のように、誕生から死までを導入期・成長期・成熟期・衰退期という時期に分類し、それぞれの特徴を理解した上での戦略構築を図ろうとするものである。
導入期はまさに商品が生まれたての時期で、自社商品を意識した競合は少ないが、世間には知られていないため、認知するための販促費用が多くかかる。
成長期は商品が認知され、その評価が増していく課程であり、販売額も増えていくが、それに伴う経費もかかる時期だ。
売れている影響もあり、競合も出てくる。
成熟期は、その商品が広く出回ったため、成長は鈍化した状態。
そして衰退期は、この商品に変わる新たな魅力を持った商品が出てきたため、その商品の販売額が減少し、市場での存在価値が低くなってきた状態である。
この概念に当てはまるものは大量生産・大量販売を前提とした商品に限ったことではなく、まさに個々の旅館の立ち居地を計る物差しとしても活用することができる。
時代とともに人々のライフスタイルや経済環境は大きく変化してきた。
そのようななかで昔から全く変わらないものを提供していて、それがずっと支持される商品は、むしろ例外中の例外といっても過言ではない。
ひとつの商品が衰退して市場から消えても、あるいは同じブランドの商品でも、仕様やバリエーションを変えて新たな命を与えられ、再度ライフサイクルに乗ることができた商品に注目すべきだ。
その裏には成熟期にはすでに次の導入を意識した商品あるいはアレンジが検討されている。
いわゆる衰退期にある旅館は、結果として成熟期から衰退期においての「てこ入れ」を怠ってしまったケースがある。
償却の終わった施設を抱えながら、新たな導入期のパワーなど、もはやないといってしまえばそこで終わりである。
旅館特有の条件は事実として受け入れながらも、要はこれからの顧客に満足を提供していける商品を構築する力があるかどうかである。
旅館経営を継続・存続させるという意識ではなく、新たな商品に命を吹き込み、新しいライフサイクルを誕生させるのが経営者の仕事である。