第265回 抜き打ち現場チェックのすすめ

 ある中規模旅館で顧客からのクレームを基に経営者が現場改善を指示している場面があった。

 そこでは、現場責任者が「わかりました」という返事があり、改善の対応を行ったという。ところが同じ内容のクレームが何度となく繰り返して発生する。

 過去半年のクレーム履歴を一覧表にしてみると、責任者による現場の改善は結果として何も機能していなかったのである。

 会議室で顧客のクレームを調べ現場に指示するというやり方では、だめだと判断した経営者は現場の実態を自分の目で確かめようと抜き打ちで旅館内部を見て回った。

 まずは密室となっている機械室。室内は禁煙にもかかわらず、なぜか灰皿がある。工具が散乱し灯油のふたも開けっ放し。危険極まりない状態に緊急指示を出し、改善の再確認をすることを宣言した。

 続いて用度室。在庫マップや出庫伝票はあるものの用度担当者が不在のときは事実上フリーで持ち出しができる。

 出庫伝票と在庫との突合せも行われていないため、在庫は管理されていないに等しかった。次に各パントリーに移った。ここではトイレットペーパーと固形燃料が必要以上に置かれていた。また、客室に提供するポットがさびついているものが多くあわてて取替えを指示した。客室の清掃をチェックすると、床の間の額縁の破損・空調機周辺の埃が特に目立った。

 わずか三時間の現場チェックでも、次から次へと「あるべき姿」と「現実」のギャップが見えてきた。

 機械室はひとつ間違ったら災害が発生する危険性がある。用度室からの過剰出庫は無駄な仕入れをすることにつながる。客室の備品・消耗品の欠陥、清掃の不備は提供サービスの品質に直結する。

 現場は無意識に日常の業務を楽にこなそうとする。するとオペレーションやサービスの内容が少しずつ崩れてくる。

 これを顧客目線でしっかりと管理監督し、現場でしっかりと具体的な改善の指示を出すことの大切さがこの旅館の経営者が痛感したことであった。

 旅館は経営者の目の届かないところで、同時にいろいろなことが進行している。だからこそ、現場の実態を自ら見て歩くことが、とても重要である。