第351回 我が旅館のグランドデザインを策定する
毎月定期的にコンサルを実施している中規模旅館がある。
いつもは、業務上優先して解決しなければならない課題についてコンサルを実施している。
しかし、今回この旅館の経営者から依頼されたのは、「我が旅館のグランドデザインを策定したい」というテーマだった。
これはどこかにすでに存在するかっこいいコンセプト集をまねて作るということではない。
策定の目的は、目標経営数値を達成させることのできる、強い旅館(企業)にすることである。
まず、旅館を取り巻く外的経営環境は今年もかなり厳しいと予想する。
しかし、その変化に対して、内的な対応はほとんどできていない。
日常業務は多忙を極め、こなすことで精一杯だ。
だから新しいことはやりたがらないし、仕事は増やしたくないという意識がある。
このような状況を、しかたがないと判断しては、この先はないと経営者は考えた。
そこでグランドデザイン策定に当たっては、顧客満足(CS)向上と従業員満足(ES)向上の両立を執拗に追い求めることとした。
つまり、旅館が目指す状態を具体的に表現し、そうなったときには自分たちはどうなっているのかを対比させることにある。
現場のスタッフは、リストラ等で労働環境が厳しくなるにつれ、この先どうなるのか?
いつになったらよくなるのか? という不安な精神状態にある。
このような中で、質の高いサービスの提供を一方的に指示しても、心も身体もついていかない。
だから、グランドデザインというこの旅館が理想とする状態を具体化し、その実現に向けて努力と工夫を重ねていくことの価値を共有することが不可欠と考えたのである。
これを宣言してからは、あいまいであったことやタブー視していたことに対し、果敢にメスを入れることが行われている。
「例外と矛盾」が横行していた現場から、周りが良く見える現場へと変わりつつある。
もちろんこれを維持していくには毎日大変なパワーが必要だ。
特に「ひと」が絡む問題が重い。
それでもそこから逃げない経営者の姿勢は、現場のスタッフにははっきりと見える。
その姿に納得したスタッフは、確かに動きが違う。