第353回 旅館再生のプロセスを間違えるな
中小企業金融円滑化法がもう一年延長され、さらに資本性借入金を積極的に活用するようにという金融庁の発表があった。
金融機関の一部では貸出先に対し、さらなるリスケの延長とともに、DDS(劣後ローン)を組む先のリストアップに取り掛かったようだ。
これまでも中小企業再生支援協議会を通して、いわゆる協議会版DDSの活用を目指した金融機関や旅館は、数多く存在した。
しかし、再生の見込がないと判断された旅館の案件は、中小企業再生支援協議会から金融機関へ戻され、結局金融機関の最終判断に委ねられるというパターンに至っている。
再生の見込の判断基準は、このコラムで何度も述べてきたように、フル減価償却後に黒字が計上される可能性があることである。
つまり、過去の負債の返済能力はともかく、自力で利益を生み出すビジネスモデルが構築できるかどうかということにつきるのである。
今、その基準に達していないが、それに向かってなんとかその基準をクリアしようとしている旅館は、まず自館の三年から五年後にかけての「あるべき姿」を明確に描くことからスタートする必要がある。
そしてそのプロセスを歩んでいく際に、障壁となるものをピックアップし、その抜本的な原因を突き止める。
さらにその課題を、努力と工夫によって解決していく。
この具体的な内容は、各旅館によって異なるのだが、実は多くの共通点が存在する。
それはまず自館の将来ビジョンが全く描かれていないことがあげられる。
先頭に立たなければならない立場の経営者が、今おかれた経営環境に悪戦苦闘し、全く何をどうしたらいいかわからないというケースだ。
これはあるべき姿が明確になっていないから、方法が見つからないのであって、課題解決のプロセスそのものが間違っているのである。
経営戦略を立て、それを実行していくという、経営者にとって最も重要な仕事は、順番を間違えると全く機能しないことになる。
事業はあくまでも結果が求められるが、その結果を導くためには、定石となるプロセスを間違えないことが基本だ。
見当違いの努力をしている時間はもはやない。
自館の存在価値を確かなものにし、そこに利益が出てくるビジネスモデルを必死で作り上げよう。