第358回 現場サイドでの宿泊料金の値下げがもたらすもの

 日常、宿泊料金の折衝は予約と営業のセクションが担っている。

 この現場を見ていると、顧客より先に料金の値下げを切り出し、安価な金額から売ろうとする場面に出くわすことがある。

 提供商品に自信が無いのか、それとも適正料金では競合旅館との関係から成約が難しいからなのか。

 いずれにしてもこれが経営者の判断のもと、行われているのであれば、ひとつの意思決定ということで理解できる。

 しかし、経営者が知らないところで、日常このようなダンピングが行われているとしたら大問題である。

 宿泊料金のダンピングは消費単価の低下へ直結する。

 これは利益が出ない旅館のビジネスモデルの典型だ。

 日帰り宴会の割合が少なく、宿泊客が大部分を占める旅館の場合、決算書における損益計算書の数値を年間宿泊人数で割る。

 これが自館の宿泊客一人当たり収支結果となる。

 つまり、売上高は総消費単価、売上原価は食材・飲料・売店原価額にあたる。

 粗利から人件費・販売費、施設費等の各経費と減価償却費を差し引いた、営業利益は確保できているだろうか?

 さらに借入金の返済をストップしていたとしても金利は支払っているだろうから、営業外支出ははずせない。

 ここで経常利益が出ているかどうかがポイントとなる。

 さらにここから借入金の返済財源と、次年度への繰越金を確保しなければならないことになる。

 そこで必要目標利益額から逆算することにより、宿泊客一人当たりの収支モデルはすぐに算出できる。

 問題はその収支モデルと直近の損益計算書から導き出した収支結果とのギャップである。

 このギャップをどのようにして埋めていくかを、経営者が考えそして実践していかなければならない。

 そのための具体的方策は個別に異なるが、売上高のアップ、そして原価および経費のダウンをミックスさせること以外に方法は無い。

 このことを経営者が認識し、現場へ具体的な指示を出していかなければならない。

 だから、宿泊料金の減額が売上高の減少につながることのないように、経営者として歯止めが必要になる。

 戦略なき単価ダウンは、経営の命取りとなる危険性が大きい。