第362回 装置産業としての認識も併せ持て

 中小企業再生支援協議会へ持ち込まれる案件の中で、二次対応つまり再生の土俵へ上ることができるものは極めて少ないという。

 その理由は、借入金の金額はさておいて、単年度で利益が出る見込みが立たないからである。

 つまり多額の債権放棄や劣後ローンを行なったところで、ビジネスが成り立たなければ支援の仕様がないということだ。

 これは理屈から言えば当然である。

 ではなぜそのような状況になったのかというと、いくつかの理由があがってくるが、そのひとつにハード面の問題がある。

 施設・設備の老朽化が進んでおり、今後施設を維持していく上で、かなりの金額の設備投資が必要となる場合がある。

 特に配管や機械関係のリニューアルについては直接売上アップに貢献しない。

 しかし実施しないと営業そのものが存続できないこととなり、旅館経営にとっては致命的となる。

 これは私的整理のみならず、民事再生等の法的整理にとっても大きなネックとなっている。

 二次対応においては、これら資本的支出が発生する設備投資においても、基本的にはニューマネーの投入はなく、あくまでも利益からの内部留保でまかなう必要がある。

 中規模以上の旅館を設備診断した場合、その見積り金額は数億円に達するケースは稀ではない。

 自力再生が無理となった場合、債権者である金融機関は、物件を競売にかけるよりも、任意売却のほうが、希望価格に近い金額で売却できる可能性がある。

 その場合、買い手は当然ながら、設備投資を含めた総合的なマーケティングの観点から投下した資本を何年で回収できるかどうかのみが判断基準となる。

 再生の現場では、とかく営業利益や経常利益にばかり注目されがちであるが、近い将来必要となる設備投資が旅館経営にとっては、非常に重要なポイントである。

 したがって単年度もしくは中期経営計画の策定において、段階的設備投資の内容と金額は是非とも組み込むことが大切だ。

 もちろんわかってはいるが、その余裕が無いから先送りをしているのだという声が聞こえてくる。

 しかし、それは必ず大きな反動となってダメージを与えることになる。

 旅館経営はサービス業であるとともに、装置産業である。この二面性を無視した経営は今後成り立たない。