第267回 お客様をひとくくりで捉える危険性

 旅館で毎月開催される営業会議にオブザーバーとして参加していて、時々これでいいのかと思うときがある。

 今月の実績と計画の差異、そして来月の予約状況と計画をうめるための方策、営業予定先の報告。まるで判を押したように毎月同じことを繰り返している。このこと自体は当然必要なことなのであるが、営業担当者は変わり映えのしない企画プランをもって、いつものエージェントや得意先に定期的に回るだけ。

 ところがエージェント自体の顧客が減少しているから、その影響がもろに旅館にかぶってくる。顧客が全くなくなったわけではないが、自分の旅館に回ってくる頻度や確率は大幅に減ってしまった。

 そこで、旅館としてどう対応するかという議論が営業会議で全く出ないのである。 経営者が結果として計画をクリアできなかった理由と対策を求めると、営業責任者はどこも不況だから仕方がない。何回も通ってコミュニケーションを保つしか方法はないという。

 このような厳しい経営環境が続いてくると、旅館の内部においても閉塞感が漂ってくる。そして、一生懸命に仕事をしているのだけれど、いい結果がでないというあきらめムードになる。 そして、それぞれのセクションでは与えられた業務を無難にこなすことが自分の仕事だと認識してしまう。

 この結果、旅館の提供商品は顧客にとって全く「心がこもっていないな」と感じるのである。

 旅館のオペレーションの標準化はとても重要である。スタッフによってサービスや仕事の質にばらつきがあってはならないとこれまでも述べてきた。その旅館のスタンダードが各セクションで確立されなければならない。

 しかし一方で、顧客を「お客様」とひとくくりで捉えてしまう危険性をはらんでいることも事実だ。

 人は皆それぞれ違う。これが大前提である。だから、まず旅館側からスタンダードの商品を提供する。しかしそれをどう感じ取ったかというそれぞれの反応を見る。そこで適切なフォローを現場担当者が取る。こんなプロセスが旅館の質を左右している。

 すべてのセクションで、今接している相手の感情をもう少し想像してみることで、次の行動が変わってくる。