第383回 己が旅館について知る~①客層

 様々な旅館さんへお邪魔させていただく中で、自分のところのホテル・旅館のことを本当にしっかり知っているのかと思うことがある。

 ここは、経営戦略を立てる上でまずスタートになる部分である。

 今回はその中からいくつか簡単に考えられるものを取り上げていきたいと思う。

 まず、第一弾として、“客層”についてである。

 自身のホテル・旅館のターゲット客層ははっきりしているだろうか。

 これが経営戦略、または営業戦略を立てる上で重要なカギをもつ。

 たとえば、料理についてである。

 こんな話があった、ある旅館では、宿泊単価をあげるために夕食の食材の質を上げた。

 それでも単価としてインパクトに欠けたので、もう2品増やし、高級本格懐石料理を提供するようになった。

 モニタリングをしたところ、評判は上々で、意気揚々と主力商品に持って行ったのだが、いざ販売すると、評判は今一つであった。

 そこで宿泊客アンケートを実施したところ、料理への不満が数多く寄せられてきた。

 その内容は【量】についてそして【郷土色】についてであった。

 その旅館は、山の中の高級旅館として営業していており、宿泊する客の多くは、富裕層、そして比較的高齢なご夫婦が多く、そして住まいは首都圏の客であった。

 その客層に対して、今回の戦略はマッチしていなかったのである。

 まず、1点目として年齢層から考える。

 この旅館の主要客層である高齢のお客様はむしろ量を食べないのである。

 確かに、料理の単価を上げるためには品数を増やすことが一番の近道ではあるが、この客層は量よりも質を望む客層である。

 そのため、食べきれない、量が多すぎるといった意見が多く寄せられたのだ。

 そして、2点目が首都圏からの客層であるという点である。

 この旅館、料理単価を上げるために、山の中なのにも関わらず、伊勢海老、アワビといった高級食材を献立に加えたのだが、宿泊客からは、なぜ山の中の旅館で海の幸なのかといった意見が多く寄せられた。

 献立にストーリが無いのである。

 正直、ちょっとした高級食材は首都圏であればどこでも食べられる。

 この客層が求めるものは、高級であるより、献立に物語のあるもの、地元ならではのものなのである。

 今回の例は極端な例なのかもしれないが、自身の旅館はどんな客層に好まれているのか、そして、その客層のニーズに本当に適したものが提供できているのか。

 今一度再考してみる必要はあると思う。