第407回 事業承継は至上命題 ③

 今から6年ほど前、投資が盛んなころ、NHKのドラマで『ハゲタカ』というドラマがあった。

 銀行と新興外資系投資会社が投資を巡って様々な対決をするドラマで、当時、手に汗握り、その中の人間模様に熱くなったのを覚えている。

 あれから6年、その間にリーマン・ブラザーズの破綻、いわゆるリーマンショックがあり、当時のような投資市場は落ち着き様変わりをしている。

 かつてのように、安く買いたたかれ、経営陣を一新し、他に高く売るというようなMBO(マネジメントバイアウト)はこと日本においてあまり見かけなくなったように思われる。

 確かに、統計によると、日本の企業同士の買収や合併いわゆるM&Aの件数は2006年にピークを迎えているが、これを中小企業だけに絞ってみた場合、年々増加しているのが実情である。

 なぜこのようなことが起こっているのか、それは、日本の中小企業の多くが後継者不足の問題に悩まされているからである。

 そして、ここで行われるM&Aはかつてのような敵対的買収や企業の乗っ取りではなく、お互いがウィンウィンな関係になるようなM&Aが多い。

 そこで今回は、現在のM&Aについて少し触れていきたい。

 簡単に言えば、後継者がいない場合の選択肢として、他の会社に会社ごと売る。

 これがM&Aである。言うは簡単ではあるが、実はここに様々な思いやドラマがある。

 M&Aのイメージが昔とは違い、ウィンウィンな関係であるのは、この“思い”の部分が、様々な形で加味されるようになってきたからである。

 例えば、創業者の特別な思い入れがある事業は継続して行うや、従業員は全員継続雇用して欲しい、経営からは退くが顧問や会長として対外的な部分は引き続き行う、自身の生活があるので退職金が欲しいなどが挙げられる。

 もちろん、相手があることなので、こちらの希望がすべて通るといったわけではないだろうが、創業者や経営者の特別な思いを汲めるような、そしてお互いがうまくいくような形のM&Aが行われている。

 また、買い手の側も、自身の発展の為にM&Aを利用するということからかつてのように差額で稼ぐというスタンスではなく、真摯に向き合うようになっている。

 後継者不足に悩む日本の中小企業、統計によれば日本の中小企業の7割ははっきり後継者が決まっていないという。

 そこで、後継“者”ではなく後継“社”という考え方もこれからは必要になってくるのではないだろうか。

 そして、繰り返しになるが、お互いにメリットを享受できるM&Aの仕組みをしっかり作り上げることが今後の旅館業の発展に必要だと考える。

 次回は、そのM&Aの具体的事例を公開できる範囲で書いていきたい。