第416回 温泉の見直し ②
かつての日本の温泉と言えば、『湯治』というのが当たり前であった。
例えば江戸時代当時は庶民の旅行と言えばお伊勢参りを代表とするような参詣というのが基本で、あまり観光に行くということはなかった。
もちろん今のようにレジャー産業が育っていないということもあるが、交通手段もない中、遠方地までわざわざ行くという習慣がなかったのである。
もちろん、江戸時代は“藩”という制度があり、勝手に自身の藩を出ることが容易ではなかったという背景もある。
温泉、湯治はというと、枕草子や古今和歌集の中にも登場するが、奈良、平安期より当時の習慣はあったが、天皇や貴族の習慣であった。
また、武士の時代になっても大名や侍は湯治に行くという習慣はあったが、なかなか庶民まで温泉にいくという習慣はなかったのだ。
かといって、入浴が嫌だったわけではない。
ご存じのとおり、江戸時代にはいたるところに銭湯が発達し、そこは庶民の日常の中の憩いの場として日本全国に存在していたのだ。
では、観光として温泉旅館が発達したのはいつのころであろうか。
それは、2つにターニングポイントがある。
一つは明治期に入り、それまでの藩制度がなくなり、また鉄道などの発達によって移動が比較的容易になった時期、そしてもう一つは、戦後の高度経済成長きに頻繁に行われた団体旅行の時期である。
この2度目の旅行ブームにより、いわゆる大人数で行くマスツアーが発達し、それに伴い温泉旅館も大型に形を変えていった。
さて、湯治という習慣はどこへいったのであろうか。
もちろん、忘れていたわけではないが、いつしかマスツアーにウェイトを置く中、湯治という習慣は第一ではなくなっていた。
しかし、近年、健康ブームとも合い重なって湯治という習慣が見直されつつある。
そして、かつてのマスツーリーズムからヘルスツーリズムと趣向が変わってきている。
その先駆けとなったのが、ドイツのバーデン=バーデンという街である。
この街は世界でも有数の温泉地であり、その温泉を中心に街としてレジャーや街の散策といった健康に力を入れている。
ドイツでは温泉や気候、海や自然の力を活用し、予防や治療を行う街を国として『健康保養地(クアオルト)』として認定する制度があり、このバーデン=バーデンは温泉を使ったその代表といえる。
街の中には、温泉を使った治療施設はもちろん、専門医の常駐、交流施設そして滞在プログラムの作成が義務付けられている。
近年、日本でもこのドイツのクアオルトにならって、街として温泉を使い健康へのアプローチを行っていく日本版クアオルトに取り組む流れが出てきている。
次回はその日本版クアオルトを紹介したい。