第421回 耐震改修促進法について①
2013年のお盆シーズン、国内旅行需要はキャリアベースで軒並み昨年を上回る結果だということを耳にした。
観光業界にとっては嬉しいニュースで、前途洋洋であると言えるのではないか。
しかし、そんな中ホテル旅館業には今後の大きな問題があるということを今回はあえて触れていきたい。
ご存じのとおり、『耐震改修促進法』についてである。
釈迦に説法かも知れないが、この法律はホテル旅館に限って言えば、一定の規模以上のホテル旅館は2015年末までに耐震診断を受けることを義務化する法律であり、その結果は公表されるとともに、受けなかった場合100万円以下の罰金が科されるとのことである。
地震大国日本において、大地震に備えての建物の耐震化が急務ということであるが、問題はその費用面についてである。
まず、発生する費用として診断料がある。
耐震診断を受けることを義務付けてはいるが、この費用も決して小さい出費ではない。
しかし、この費用は施設側の負担ということになっている。
また、もし基準を満たせない場合は耐震補強の工事が必要となる。
この法律が適用されるホテル旅館は一定以上の規模を持っていることより、必要な設備投資額は膨大なものになり、場合によっては数億円と下らない。
この費用はどうやって工面すればいいのかということが問題になっている。
直近まで施行されていた中小企業金融円滑化法は借入超過による返済によって経営が圧迫されている中小企業への策として実施されており、ホテル旅館はもちろん日本中で多くの企業がその法律の恩恵を受けたが、完全に潤沢な経営が行えるまでに回復したかと言えば、それはごく一部であり、まだまだ苦しい状況が続いているところが多い。
そんな中で安心・安全のためということは十分理解できるのだが、大規模な設備投資を行う余裕がないというのが本音ではないだろうか。
そして、もう一つの大きな問題は風評の問題である。
この耐震診断結果は公表されるのである。
そのため、診断を行わなかった場合の罰金100万円以下はもとより、診断を行った上で設備投資までの資金の余裕がない場合は『耐震不足』として公表されてしまうのである。
そこで起こる宿泊客離れは予測できないほどに大きなものになるのではないだろうか。
もちろん、このたびの『耐震改修促進法』は安心・安全という観点に立った場合、利用者の立場に立った場合、必要な法律であると考える。
しかし、費用面の考慮もなく、しいてはこれにより大きく経営を御圧迫してしまうのは、本末転倒のような気がしている。
現在各経済団体よりこの法律への考慮、熟慮を求める運動をしているとの話も聞いているが、明るい日本、そして国内旅行需要の気運に水を差すことの無いように政府には慎重な熟慮を求める。
次回はこの問題への取組み等について触れていきたい。