第256回 客観的な業務記録が改善の第一歩

ある訪問先の旅館では、いつも同じ部署に経営者から改善指示が出ている。しかし、一向に改善の兆しが見えない。部署の責任者を変える前に、何が問題なのかを現場で明らかにすることになった。

そこで、まったく仕事内容が異なる部署から数名をピックアップし、問題の部署の仕事ぶりを時刻と業務内容を客観的に記録する作業を何日にもわたって繰り返した。

その結果、人により作業の仕方や手順が異なること。仕事の精度に大きなばらつきがあること。そして誰もチェックする仕組みがなかったことが明らかになった。

今までは問題がクレームという形で発生するたびに、現場責任者に何とかしろというだけだった。それに対して責任者は人手が足りず、忙しいときにたまたまミスが発生する。根本的な原因は人手不足だといって人材投入のみを要求していた。

このようななか、あえてその現場を知らない第三者に記録をとってもらい、その場での感想を指摘してもらったところ、ずいぶん前に一度決めた方法を環境が変わってもそのまま行われていた弊害が浮き彫りになった。

業務担当者は当初先輩から言われた通りに仕事をこなしていたが、いつの間にか、仕事の精度に精彩を欠くことになったのである。

この旅館では多くの部署で業務がマンネリ化していると感じた経営者は、この案件をきっかけにすべての業務の現状を記録し、これをもとにこの旅館の業務スタンダードづくりに着手した。

これは他の旅館のマニュアルを頼りにするのではなく、現状の業務フローを基にしている。 そしてその流れや方法を、他の部署の客観的な指摘を受け、プロジェクトチームで業務の見直しを行っている。

業務改善の目的は、より質の高い商品提供をすることにより、顧客からの高い支持を受けると同時に、スタッフのモチベーションアップにある。

何をどうしたらいいかの指示もなかった今までと違い、やり方をどう変えるべきか、目の前に具体的な方法が少しずつ見えてきた。

毎日同じことを繰り返す日常業務は慣れるにしたがってスムーズに行うことができる。しかしそれとは裏腹に品質が低下することもある。ここに目を光らせることが重要だ。