第431回 世界遺産・和食

 世界遺産を認定する機関としておなじみのユネスコには通常世界遺産と呼ばれている歴史的遺産の世界文化遺産と世界自然遺産の他に、世界無形文化遺産というものもある。

 これは、2003年よりユネスコが認定しているもので、音楽や芸能、祭りなどの文化を保護する目的で認定されているものである。

 アジア地域ではこの無形文化遺産へのアプローチが積極的で、ここ日本でもすでに能や人形浄瑠璃、歌舞伎といったものが登録されており、中には、京都祇園祭の山鉾巡行や宮城の秋保の田植踊など地域に根付いた民俗芸能も登録されている。

 その中に『食』を扱っている項目もある。

 現在のところ、食として登録されている無形文化遺産は、『フランスの美食術』、『メキシコの伝統料理』、『トルコの伝統料理ケシケキ』ということになっている。

 現在、農林水産省を中心に和食をこの世界無形文化遺産へ登録しようとの動きが活発であり、見通しは概ね良好ということで、まもなく日本の和食文化が、世界の保護すべき貴重な文化和食として登録されようとしている。

 現に世界中の多くの場所で和食は好まれており、ニューヨークのマンハッタンでは日本食料理屋が数百軒、寿司などの一品でも日本料理を提供する店は1万軒を超えると言われており、我々日本人としては何とも嬉しいニュースである。

 しかし、一方でこの嬉しいニュースに警鐘を鳴らす声も聞こえる。

 それは、本来の日本料理、和食を我々日本人自体が分からなくなってきているのではないのかということである。

 11月1日は寿司の日ということで、昨年おもちゃメーカーバンダイがこどもたちに取った好きな寿司ネタのランキングによると、1位イクラ、2位マグロ、3位サーモンという結果であった。

 ここにもさまざまな意見がある。

 例えばイクラも人工のイクラが出まわっていたり、マグロもマグロと表記しながら赤マンボウを使っていたり、そもそもサーモンは日本食ではないなどである。

 先日起った食品偽装問題も含め、和食ということに関して触れていきたい。

 まず、和食の中で失われているもっともなことは、私は『季節感・地域色』だと感じている。

 豊かになるとともに、昔は一部の季節しか味わうことのできなかった食材が、物流や栽培方法の進化等によって一年を通じて、どこにいても味わえるようになった。

 しかし、食材には最もおいしい時期がある。

 当たり前の話だが、それは『旬』とよばれ、その旬を基本に献立を組み立てるのが和食の根底である。

 次回以降、少しこの世界は保護すべき文化遺産という和食の話をしていきたい。