第432回 和食 地域・郷土『食』
タイムリーな話であるが、先日11月10日に愛知県豊川市において第8回B-1グランプリが行われ、2日間で60万人近くの人が来場した。
グランプリは浪江町の浪江焼きそばが制した。
まだ8年しか経過していないB-1グランプリだが、その波及効果は大きな力を持っており、一説には開催した場合の経済効果は40億から50億近くになるという。
ではなぜこんなにも一気に人気を博したのだろうか。
そこには食に対する『地域食』というものへの憧れがあるのではないだろうか。
さて、前回より和食ということをテーマに挙げて考えているが、和食そして地域・郷土食と考えると、やはりそれを味わえるのが旅館ではないだろうか。
地域にはそれぞれおもてなしのための最上の食事があるのである。
そして、旅行に行く際にはそれを味わうことも旅行目的の大きな要因になっている。
しかし、実際のところはどうであろうか。
様々な旅館にお邪魔する際に食事の話は必ずあるが、物流などの発展によることも多きいいのだろうが、なぜこの場所でこの料理ということを多く目にする。
代表的なもので言えば、収穫はしてないのに、または海すらない山の地方なのに、海の幸、あわびやカニ、まぐろといったものが提供されている場合がある。
味に関しては千差万別ある。
当然、いいものはやはり味も良い。
しかし、ここに地域・郷土食は感じられない。
それは、いくら美味しいものを提供したとしても、旅行全体の満足度として考えた場合にマイナスに作用してしまうのである。
逆もまた同様であり、山陰地方の山間部の一部ではワニ肉料理が昔からある。
ここで言われているワニとは、一般的な爬虫類のワニではなくサメのことである。
では、なぜ海の無い山陰地方の山間部でサメが昔から食べられているのだろうか。
それは、冷蔵技術の無い時代の話であり、サメの肉は非常にアンモニアが強く、通常の魚が3日程度しか持たないのに対しサメの肉は3週間程度持つと言われている。
そのため、海の幸の届かない山陰地方においてもサメの肉は食べることができたのである。
もちろんサメ自体の収穫量を考えると、毎日の食材というわけではなく、いわゆるハレの日の食材として提供されてきたのである。
サメの肉はアンモニア臭が強いので独特の風味を持っており、好き嫌いは個人差がある食材であろう。
また、風味を消すためにいろいろな調理方も必要になってくるのであろうと思う。
しかし、ハレの日の貴重品を提供するという精一杯のおもてなしの心、これがなによりも嬉しく感じるのである。
味ももちろんではあるが、地域の精一杯のおもてなし、これこそ、至上の食事ではないだろうか。
食にはエピソードとストーリがあり、それを含め味わうことができる地域・郷土食。
これが和食の原点でもあり、旅館の醍醐味の一つであると考えている。