第279回 事例研修の場で気づいた行動改革
ある三十代の旅館後継者から話を聞く機会があった。
バブル崩壊後、この旅館では厳しい経営環境が続いたが明快な解決策を打つことができないまま推移してきた。
当時は学校に通い大学卒業後地元の企業に就職、数年の時を経て自分の親が経営する旅館に就職した。
フロント係りを経て営業回りを行うようになり数年が過ぎた。
父親からもそろそろ後継者としての認識を持つようにと言われある日決算書を渡された。
経営状況は厳しいと何となく認識はしていたが、目の前の決算書をもとに社長が説明した経営内容に驚愕した。
それからは社長の仕事を補佐する役目に転じ地元や業界の会合にも出席するようになった。
そのようななか、旅館経営を抜本的に立て直すための役割が自然に自分の役割となってきた。
ところが思いつきで現場の先輩従業員たちに意見を言ったところで、できない理由ばかりが返ってくる。表向きは後継者ということで、それなりの扱いを受けるのではあるが腹のそこでは「若いボンボンが何を言っている」という感情が伝わってくる。
自分の立場としては、何とかこの現場を変えていかなければならない。しかし、おぼろげな理想像に向かって何をどのようにすれば、よくなるのか全く見えない状況が続いた。
知識の習得にと、ビジネス書やインターネットでの情報をむさぼるように収集した。 しかし、原理原則は理解できても現実は教科書どおりにはいかないというジレンマに陥っていた。
そうしたなか、地元とはかけ離れたところで、同じ悩みを持つ後継者たちが集まって現状の課題をどう克服していくかついて事例研究する場に参加することができた。
参加人数分の仮設と検証のシミュレーションを体験した後継者は自分の旅館に戻り、指示だけをするのではなく先頭を切って現場で行動をした。
指示される立場の気持ちを理解せ、一方的に指示を連発しても誰もついてこない。このことを事例研修の場で気づいた後継者は「いきなり人を動かすことはできない。自らが動くことで人は意識が変わることがある」ことを実感した。
「あのボンボンがあそこまでやるんだったら」と思ってもらうまで動くことだ。