第280回 安易な宿泊単価のダウンは命取り
地域の観光イベント強化や高速道路のETC割引の効果等が重なり、観光地としての入り込み数が増えたという話を聞く。ところがそれにもかかわらず、宿泊客数は減少したという地域が多い。
ある旅館では、減少傾向に歯止めがかからない団体客の増加は見込めないと判断し、グループ・個人客に的を絞った集客にシフトした。
そこで出した経営の見通しでは、定員稼働率は減少するものの、客単価アップでその分を補填しようとする目論見があった。
しかし、当初計画した宿泊単価二万円では計画数値の入込みを達成されることができず、対策に苦慮していた。
周りの同業者も同じように主要ターゲットをシフトしてきている。
そして同じように集客が伸びないため宿泊単価を思い切って数千円ダウンさせるという旅館が出てきた。最初は限定商品として様子を見ながらのスタートだったが売れ筋がこの商品にかたまったため結果として宿泊単価のダウンを断行したのである。
この影響が周辺の旅館へ瞬く間にでてしまい、他の旅館も宿泊単価の設定を大きくシフトダウンしてしまった。
一昔前の遊興を伴う団体客は宿泊単価が低くても二次消費が見込まれていたので、最終的な消費単価が二万円前後で終始していた。
ところが個人客は二次消費がほとんど期待できないという特徴をもっており、宿泊単価が比較的高いことが唯一の救いだった。
しかしながら、その肝心の宿泊単価を下げざるを得なくなったため、結果として収支は大幅な赤字を計上することとなってしまった。
この旅館では価格をさげても利益が出るように、原価・経費の見直しを急遽行っている。いささか順番が逆になってしまっているが、とにかくこの路線で走る以外に方法はないと考えたのである。
単純に宿泊料金の値下げだけに頼ると、利益がでない体質になってしまうので非常に危険である。
今特に重要なことは宿泊単価の変動に伴い原価・経費をいかにコントロールし、利益獲得とキャシュフローが回るしくみを自社でつくりあげるためのシミュレーションが急がれる。それには原価・経費の数値とその内容が明確にわかるように整理できていることが大前提だ。