第457回 日本文化 視覚

 第一印象はどこで決まるかと言われれば、もちろん『見た目』で決まるものである。

 そして、その印象を持った状態で、他の様々な部分を認識していくのである。

 例えば、人物であれば声、話し方、性格等知っていくのだろう。

 ホテル・旅館の印象も同じで、どんなにきめ細やかなサービス、こだわりの絶品料理を用意しても第一印象によって全体的な満足度が大きく左右されてしまうことが多いのである。

 そこで、今回は日本の文化を今一度考察し、5感のうち『視覚』について考えてみたい。

 例えば、『夏』というキーワードで考えた場合、頭の中ではどのようなイメージを浮かべるであろう、照りつける太陽、ひまわり、蝉の声、麦藁ぼうし。

 私は縁台に腰掛け、麦茶を飲みながらうちわを仰ぐという絵を想像したのだが、そこで注目したいことが、家の色である。

 日本の家として想像する場合、多くは畳、白木の廊下や柱、土壁、ふすま、障子などであろうと思われるが、ここに登場してくる色は白やベージュ、薄い緑といった淡い色が多いのである。

 これは、『捨て色』と呼ばれる色使いである。

 捨て色とは他を映えさせる為にあえて薄い色で構成する色遣いのことであり、日本の建築物も含め色彩には多く使われている。

 ではなぜ、捨て色を使うのか、そして何を映えさせようとしているのかということであるが、それは、『自然』である。

 日本の文化の多くは、自然との共生、コントラストが多く、特に色使いは例えば季節の花を引き立たせたりという具合で淡い捨て色を周りに用いることが多いのである。

 また、明かりの使い方も、そのままの火の明かりではなく、一度白い和紙を通す行燈など、優しい光になるように工夫されている。

 そして、その捨て色、他を映えさせる色使いこそ、日本の色文化の象徴なのである。

 このように育まれてきた日本の捨て色文化は、今や日本人の中では当たり前のこととして位置づけられており、そのために、日本人が精神的に癒される空間とは、この捨て色を使っている和室なのだという。

 最近では、畳に座っては体制として苦しいなどの意見から、畳の上に椅子を置くこともされている。

 また、布団よりベッドが好まれるとの話もある。

 これらは日本には昔は無かった文化であるが、それでも、色遣いは捨て色であってほしいと私は考えている。

 ホテル・旅館も見た目で印象が決まる。

 そうであればこそ、色使いというものを考え、日本文化である『捨て色』を上手に使った癒しの空間を作ること。

 これこそ日本文化なのだと私は思う。