第467回 物流の進化がもたらすもの
旅行に行く目的の一つに食事・料理という項目が必ずある。
海に近い観光地に行けば、地元の漁港で獲れた新鮮な魚介類、山の中の温泉地に行けば、地場で獲れた山菜や野菜、更には地元ならではのブランド肉などその場でしか味わえない新鮮なものを楽しむ、これが旅行の醍醐味である。
しかし、そんな常識が今や通用しなくなってきているのではないだろうか。
一つは都会の存在である。
例えば、東京都内であれば、北は北海道から南は沖縄まで、ありとあらゆる食材が手に入り、それ専門の食事処も数多く存在している。
きりたんぽが食べたいなと思った場合、わざわざ秋田まで行かなくても、インターネットで検索すれば、東京都内だけで20店舗位秋田料理屋があり、へたをすれば近所のスーパーで売っているのである。
これは交通網の発達やそれになんといっても物流の進化が素晴らしいのである。
みなさんも利用したことがあるかもしれないが、いまや文房具や書籍といったものの多くは、店に行かなくても翌日には届くのである。
まさに瞬時にニーズ喚起から注文までできるインターネットと、それを可能にする物流サービスが織りなす画期的な仕組みなのである。
その仕組みを今や食料品、さらには飲食業界も取り入れ始めている。
例えば、北海道で朝獲れた魚介類を猟師さんがスマートフォンで撮ってホームページに掲載、朝6時くらいにもかかわらず、8時までには注文が確定し、そのまますぐに出荷する。
そうすると、東京の注文した家に17時くらいまでには到着し夕食に間に合うサービスがある。
つまり北海道産の取れたて新鮮な魚介類がその日の夕食には食卓に上がるのだ。
これは北海道だけではなく、これから様々な漁港で行っていく方向だそうだ。
このように、物流の進化によって食材のあり方が大きく変わっているのである。
そのため、大きな意味で言えば、旅館で提供しているような料理・食材というものはありふれているものになり、勝負すべきライバルは近郊の旅館ではなく、もはや都会の飲食店なのである。
では、そんな時代にどのように対抗していくのか、都内の同じ食材を使った飲食店と対抗していくのか。
それは『旅』ではないのかと思う。
抽象的な表現で申し訳ないが、料理にも『旅』が入っている。
それが旅館料理なのではないだろうか。
そう考えると、山の中の旅館で魚介類を提供するところがあるが、何ともそこに『旅』があるとはどうも思えないのである。
ましてや、温かいものを温かいうちに提供できないなど、言語道断であると言わざるを得ない。
繰り返しになるが、物流の進化したこんな時代、意識し対抗すべきは近郊の旅館はもちろんだが、都会の飲食店だということをお忘れなきよう。