第472回 資産と差別化
東京都台東区谷中。
近年では周辺の千駄木、根津と合わせて『谷根千』なんて呼ばれ方もする地域で、この地域はどこか懐かしい日本の風景を今も残している、いわゆる下町と呼ばれる場所である。
この場所にあまりにも有名だが、世界に向け日本を代表する旅館『澤の屋』がある。
観光カリスマにも任命されているこの旅館はあまりにも有名なので、ここでの紹介は簡単にさせてもらうが、この客室12室の澤の屋旅館の客室稼働率は平均しても90%以上でほぼ満室、そのお客の大半が外国人観光客である。
さてここで取り上げたいことはインバウンドではなく、差別化ということに注目していきたいと思う。
澤の湯は建物が古く、また、谷中という土地柄、交通網の発達した東京での観光宿泊ということに限界が来たのである。
露天風呂もない、温泉もない、ましてやトイレも各部屋には難しいという状況の中、日本人の観光客が減り一時は経営難まで陥った。
そして自旅館を改めて見直し、自旅館の売りを探したのである。
一つは日暮里駅に近いということである。
日暮里駅は東京都内を環状するJR山手線の駅でもあり、そして、成田空港からの直通列車が到着する駅でもある。
この地の利を生かし外国人に目を向けたのである。
そして、外国人が日本に来て味わいたいものは何か、外国人が日本に来て不安や不便に感じることは何かを徹底的に洗い出し、今までの旅館のスタイルをカスタマイズしていったのである。
とはいえ、何か真新しいものをやったわけではなく、日本人が日々習慣として行っていることを外国人に自分たちのできる範囲、つまり手作りで提供したのである。
例えば、日本は四季があり、そのそれぞれに多くのイベントがある。
正月には獅子舞があり、おせち料理やお雑煮、2月になれば節分、花見、しょうぶ湯など様々な歳時記ごとのイベントを一つ一つ丁寧に行ったのである。
また町内会のお祭りにも宿泊客が参加できるようにし、見るだけではなく、実際に宿泊した外国人旅行者はおみこしを担いだりと体験できるのである。
これらは外国人からすれば物珍しく、ホテルに宿泊するよりもいわゆる日本感を味わえるのである。
さて、澤の屋から学ぶこと、それは外国人旅行客を受け入れる時のコツや注意事項も当然ながら、その根本である、澤の屋の圧倒的な特徴である外国人観光客の受け入れに特化するという舵を切った営業戦略ではないだろうか。
営業戦略を決定する上で、まず、自旅館の特徴・売り、そして気づいていない日常、それらを資産と考え、ターゲットを絞り込み特化する。
自企業にはまだまだ気づいていない資産が眠っているかもしれない、今一度自社の資産を掘り起こしてみると新たな気付きがあり、それが大きな差別化になるのである。