第438回 経営者に最も必要なことは④

 金融機関から財務内容を指摘されたりという場面で、どうしても人件費を何とかしてほしいという話が多い。

 数字だけ見ても決算書上における人件費のインパクトは業種を問わず大きいと言える。

 だが、この人件費については色々気を付けなければいけないことが多いので、単に同業と比べて多いから減らそう、他業種に比べて多いから削減しようということではない。

 結果から言えば、私自身は人件費に手を付ける、特に役員報酬ではなく賃金や給与を見直すのは最後の最後、パンドラの箱ということにしている。

 なので、経営者にとって難しい問題の一つ、人件費について少し触れていきたい。

 まず、法律の問題から考えていきたい。

 労働基準法を筆頭に労働に関する権利や法律はたくさんある。

 解雇の時期や有給の問題、残業の問題など形は様々ではあるが、大前提としてそれらの法律の多くは、まず経営者のためではなく、働く従業員の権利のための法律だということである。

 詳しいことは社会保険労務士の先生にお聞きいただきたいが、まず意識しなければいけないのが、従業員側には法律があるということなのである。

 そこを踏まえると、例えば従業員が権利を主張してきた場合、法律で認められていれば、原則応じなければいけないのである。

 言い方は難しいが、たとえそれによって業務効率に影響が出るとしてもなのである。

 そのため、経営者は従業員、労働に関わる最低限の法律は理解する必要があり、そのための備えは行うべきなのである。

 次に業務効率について考えていきたい。

 当然、業務効率を見直し、無駄をなくせば人件費コストを下げることができる。

 しかし、工場などの工程作業は時間で管理することが可能だが、サービス業、ことホテル・旅館業に限って言えば何が無駄で、何が必要かがとても難しい。

 実際にあった話だが、従業員が空いている暇な時間にPOP広告や折り紙で小物などを作っている旅館もあり、それが評判の旅館もある。

 そのため、大きな部分に差はないが、細かくみると当然一つ一つの旅館ごとに仕事の内容が様々なので一概にこうだということが難しい業種なのだ。

 では業務効率を上げるにはどのようにしたらよいのか、私は職場環境を整えて従業員満足度を高めることだと思っている。

 大にして良い旅館、評判の旅館は従業員が楽しそうなのである。

 そのためか、従業員自らが自旅館に誇りを持ち、自らが工夫して行動するようになる。

 これが効率を上げるための第一歩なのではないだろうか。

 そのため経営者は職場環境、従業員満足度に関して意識する必要があると考えられる。

 次回、この労働という部分に関してもう少し触れていきたい。

第437回 経営者に最も必要なことは③

 明けましておめでとうございます。

 本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 さて今から5年前の2007年、第一次安倍内閣の際に、当時安倍内閣総理大臣の政権構想の中に『美しい国 日本』というものがあった。

 これは安倍内閣が国民とともに目指すものとして掲げ、活力とチャンスと優しさに満ちあふれ、自律の精神を大事にする、世界に開かれた、「美しい国、日本」と定義されている。

 政治的な話はひとまず置いておくとして、この構想自体には総論賛成である。

 では具体的にどういうことなのか。

 今の安倍政権では特別クローズアップされないので、私なりに考えてみた場合、景観や文化などが該当すると思われるが、外国に向けて日本の魅力を発信し、日本人に自国の魅力に誇りをもとうという解釈をしている。

 話は先日12月に日本政策投資銀行から発表された、『アジア8地域・訪日外国人旅行者意向調査』について触れていきたい。

 この調査はアジア8地域、中国、韓国、香港、台湾、タイ、マレーシア、インドネシア、シンガポールそれぞれ500人にインターネットで、行きたい国と日本の魅力について調査を行った。

 その結果、全体で、行きたい国において日本は首位、地域別に見ても、東南アジア、香港、台湾では首位、政治問題の悪化が問題となっている中国においても、2位で昨年の3位より順位を上げている。

 韓国だけは昨年の13位と比べ17位とランクダウンしてしまった。

 これは政治的な問題が大きく関係していると思われる。

 また、日本の魅力、日本で体験したいことについては、『和食』『景観』『温泉』と人気上位であり、日本旅館についても全体の58%が体験したいと答えており、特に東南アジアにおいては70%近い人が日本旅館を体験したいと答えている。

 この結果より、外国人の特にアジア地域における日本に対してのニーズは非常に高く、潜在需要があると言える、そして、日本に来たいと思っている人の多くが温泉旅館に宿泊して和食を味わいたいと考えていると言えるのではないだろうか。

 さて、経営者に最も必要なことというシリーズで書いているが、今回経営者に最も必要なことの一つとして、『情報』ということを言いたい。

 世の中には情報がたくさん溢れている。

 今やインターネットを通じて簡単にしかも大量に情報を手に入れることができる。

 大事なことはアンテナを高くし、経営者はいち早く情報をキャッチし対応するということである。

 上記のような情報もそうだが、手に入れた情報の中より有益なことを選び、選択し、経営の舵をきる。

 これも経営者に必要なことの1つではないだろうか。

第436回 経営者に最も必要なことは②

 別の要件で旅館を取材しているとき、銀行の方が社長に言い寄っている場面を目にした。

 『社長、1泊12,000円のお客様から利益はいくらありますか。』

 『このお夕食にはいくらかかってますか』

 『今日働いてる方は総勢で何名ですか』

 まくしたてるように銀行の方は社長に次々と質問するのだが、社長の答えははっきりせずあいまいなものばかり、隣に同席している経理責任者に聞いて答えているという光景であった。

 おそらくこのような状況は決して珍しくないものなのであろうと思われる。

 社長業とはマネジメントであり、その管理の方法の一つが数字なのだから、把握しないことには計画が立てられないというのである。

 では、どのようにしたらよいのかということであるが、以前もここで書かせていただいたが、利益を上げるには2つしかアプローチがない、“売上をあげる”“経費を下げる”である。

 こまかくに見ていくと、売上を上げるには、数量を増やす、単価を上げるという切り口があり、経費では、原価を下げる、固定費を下げるという切り口がある。

 これを踏まえた上で、数字を見ていくこと、それを基に計画を立てることが必要になってくる。

 そして、それを基に各部門ごとが動くことによって円滑な業務や計画通りの利益を生み出すことができるのである。

 これができないと、いくら宿泊客が増えても、経費が掛かりすぎていて増えれば増えるほど赤字になるといったことになりかねないのである。

 では、どのように管理したらよいのか、それはそれぞれの業務を社長や経営陣が把握していることが大切になってくる。

 例えば、よくありがちなのが、調理部門が“聖域”になってしまっているケースである。

 調理は献立作りから調理長にすべて任せている。

 そのため、仕入や調理器具、皿にいたる所まで調理長が決済権を持っている。

 こういった場合、調理長の意向いかんにより原価が大きく変わり、とてもマネジメントできない。

 しかし、経営者が調理を直接行えるわけではないというジレンマが生じる。

 そのため、社長はマネジメントするために、仕入の一つ一つまで把握しなければとまではいかないにせよ、献立の決定等の決済権は社長が把握するべきなのである。

 同様に客室係等も同じである。

 例えば新人を入れるかどうかも業務効率が優先されがちであるが、経費の面もしっかり社長が踏まえなければ話ができないのである。

 厳しい言い方になるかもしれないが、従業員サイドはお給料がしっかりもらえていれば良いと思うことが多く、その上さらに業務が楽になればという視点での話が多い。

 そこをしっかり、必要なところに必要な経費を掛けられるようにするためには、社長が数字をしっかり把握し、業務を把握し、話ができるように、根拠裏付けができるようにならなければいけないのである。

第435回 経営者に最も必要なことは

 経営者に最も必要なことはと考えると、ありすぎてとてものせきらないのが実際であろうし、100人いれば100通りがあってしかるべきである。

 しかし、根本に備えておかなければいけないもの、素養といったところは共通するのではないだろうか。

 今回は、経営者に必要なことについて触れて、本当にたくさんあるのだが、今回は2つに絞っていきたい。

 1つは『数字に明るくなる』ということである。

 財務諸表がしっかり読めることがマネジメントの第一歩なのである。

 自社の強み弱みといったところは、感覚などで把握しているケースが多い。

 しかし、実際にあった話だが、当旅館は料理が売りでという旅館があった。

 確かに料理はおいしく、先週まで書いていた郷土色や旬といったポイントもしっかり押さえており、なんとも印象深い料理なのだ。

 しかし、料理原価を調べると宿泊費の50%をも占めている。

 当然だがこれでは、旅館経営として成立するわけもない。

 大切なことは、状態、歴史等から自社の強み弱みを抽出することも必要だが、数字の上から判断するということも決して忘れてはいけない。

 多くは顧問税理士等にお願いをし、説明を受けていることであろうが、基礎知識が無ければ何も理解はできず、右から左ということもあるのではないだろうか。

 そして、顧問税理士等の先生も常に自社内にいるわけではないので、タイムリーな分析を行い、把握するには、経営判断できる人物、つまりは経営者が数字に明るくなければならないのである。

 そして2つ目は『ジェネラリスト』になるということである。

 ジェネラリストの対義語が『スペシャリスト』になるということからもわかるように、ジェネラリストとは、その分野に精通している人物ということではなく、すべての範囲を網羅的に理解・把握しているといった意味になる。

 現場に置き換えて考えてみた場合、前述の会計(経理)も含まれるのだが、例えば、調理部門。

 経営者自らが料理の腕を振るう必要はない。

 料理は専門のスペシャリストにお任せすればいいのである。

 しかし、調理部門も管理しなければ経営にならない、管理するためには技術や腕ということよりも本質を理解することが大切なのである。

 このように経営者は各部門において必ずしも凄腕を発揮する、というのではなく、それぞれの部門において最高の結果を残せるように管理するということが必要であり、そのためにはすべての部門のことをしっているジェネラリストということになるのだ。

 次回は事例も含めこの数字とジェネラリストということについて掘り下げていきたい。

第434回 和食 『器』

 落語に『時そば』という話がある。

 簡単に言えば、蕎麦屋を褒め、気分良くさせて、いざお会計の時に時刻を聞いて1文ごまかすってことをやっている人がいて、それを見て、真似しようとした人が時刻を聞く時間を間違え余計に支払いをしてしまうという落語である。

 その落語の中で蕎麦屋を褒めちぎるくだりがある。

 気分良くさせるために、屋号、割りばし、竹輪、そばの細さ、出汁などありとあらゆるものを幇間のように褒めちぎるのであるが、器の話がある。

 演者によって多少の違いはあるが、『いいどんぶり使ってるねぇ。物は器で食わすっていうからね。多少まずくったって器が良けりゃうまく感じるってやつだ』という台詞である。

 今回は器、食器の話をしていきたい。

 食の中には色合いというものがある。

 洋食では、緑が足りないや話や、パプリカ等を使って色を鮮やかにする、皿の周りにもソースをひいて鮮やかにするなど様々な手法があるが、日本食にも同じようなものがある。

 それは、『捨て色』という考え方である。

 それは、主張をせず、周りを引き立たせる色のことである。

 日本ではかべやふすまなどに多く見られる色であり、その色を使うことによりなんとも落ち着いた空間を演出できる。

 さて、日本食の場合である。

 上手にその料理を引き立たせることを考えた場合、器はやはり捨て色が良いと思われる。

 しかし、最近ではせっかくの料理が器によって台無しになっている場合が多いように思われる。

 よく目にするのが、例えばパステルカラーのカラフルな器。

 この場合、カラフルな器にに合う料理もあるのであろうが、もともと色彩が薄い日本食にはどうもなじみが薄く、なんとなく食べる前から安っぽく映ってしまう。箸も同様である。

 まさに『ものは器で食わせる』である。

 以前食事は演出によって味が変わるというお話をした。

 もちろん、日夜料理に一生懸命に取り組んでくださる調理部の方々の努力の上に成り立つ話なのだが、さらにということを追求した場合、季節感、郷土色、ストーリー、そして器と様々な要素がプラスアルファされて、旅館の食事という分野になるのではないだろうか。

 精一杯のおもてなしとは、私個人の見解だが、いつまでも話せる、誰かに話したくなるような思い出を持って帰っていただくことだと考えている。

 語り草になるような料理はその部分で大きな役割を占めるのではないだろうか。

 最後に、ぜひ、自旅館・ホテルの食事をお客様と同じ目線で食べていただきたい。

 それは試食という形ではなく、オペレーション、ストーリー、そして器も含めた形で。

 何かそこに発見があるはずである。