四国には、四国八十八箇所の霊場を巡るいわゆるお遍路さんという風習がある。
これは、江戸時代のころより庶民の間で流行した巡礼の一つで、かつて四国で修業した弘法大師の徳にあやかるようにということで、現在では、徒歩はもちろん、自転車や車を使うといった具合に形こそ多少変わったのかもしれないが、今でも盛んに行われている巡礼である。
このお遍路さんが今でも盛んに行われている理由はいくつか考えられるが、その中の一つに、経済的負担が少なくても行えるということがある。
それは四国の人々の間で今も根付いている『お接待』という習慣である。
四国でお遍路さんに行う『お接待』とは、例えば、遍路の途中に見知らぬ人より「お茶でもいかがですか」と声を掛けられたり、「接待所」と呼ばれる無料の休憩所があったり、中には、宿泊をさせてくれる家や、現金をくれる人もいるとのことである。
これは、お接待自体に、代参の意味があり、徳の高い行為とされておるからだとされているが、もちろん、この好意の裏には、四国の人々奉仕やおもてなしの心と、苦労があったと思われる。
江戸時代に始まったお遍路という巡礼が、平成の今の世の中でも盛んに行われている理由の一つに、四国の人々の中に根付くお遍路さんをおもてなすあたたかい心が可能にしているのだと思われる。
さて、話は変わるが先日2020年の夏季オリンピックが東京で開催されるという嬉しいニュースが飛び込んできた。
これをきっかけに多くの外国人が東京近郊、ひいては日本に訪れることとなる。
これは、インバウンドの観点から言えば大きなチャンスである。
これをきっかけに日本の「おもてなし」を諸外国の人々に体験してもらういいきっかけである。
そのために、私は旅館やホテル産業界だけではなく、7年後といえば今の中学生も大人になる年である、そのためそれぞれの地域で、子どもたちにまでしっかりと「おもてなし」の気持ちを教えることが大切であると考える。
その中で、私は四国の人々の中に今でも根付いている『お接待』の精神、諸外国の人々を日本全体で『お接待』するということが日本を好きになってくれる外国人の方を増やし、インバウンドの大きな発展に寄与できるのではないかと思っている。
東京オリンピック開催、56年ぶりのこの大きなイベントを観光業界にも明るい光を照らすきっかけにしていきたい。
| 2013年09月11日|
日本は豊かになり、物流が発達しどこにいても新鮮なものが手に入るようになってきた。
その影響か、山の中の温泉地の旅館料理も昔ながらの鮮魚のお造りはもちろん、アワビやカニといった高級食材でさえ味わうことができる。
それは嬉しいこととも思えるが、私はここに落とし穴があるように思われる。
この夏の国内レジャーはここ数年の中で比較的好調と言え、全体的には良い話をたくさん聞くことがある。
そして、夏の主力ターゲットである家族層に対して、上記のような特別高級な食材を提供する食事メニューが概ね受けていることも実際である。
しかし、それが日本の伝統的な食事と、文化と、旅館ということができるのであろうか。
今回はあえて苦言と主観そして対策を述べていきたい。
レジャーの中で旅館への宿泊を選ぶ消費者心理の中には、旅館に対する様々な期待が存在しているのは言うまでもなく、その中でも施設や料理といったものは大きなウェイトを占めている。
そして、多くの旅館は和食の伝統である割烹スタイルを取っているところが多いのが現状である。
しかし、大事なことを見逃していると思われるものが多い。
それは食事のストーリー性であると私は考えている。
確かに物流の進歩や宿泊客の趣向の変化により、食事の形態も様々な形で変化するのは当然のことである。
しかし、言い換えれば、どこに行っても同じような料理内容になってしまいがちであるということである。
確かに物流が進歩したとはいえ、海の物は海のそばで食べた方がおいしいに決まっている。
にもかかわらず、山の中に来てわざわざ海の物を料理に出すのでは、土地ならではの『風土』が失われている。
また、季節感という点でも同様である。
多くの旅館が食事に占める仕入の問題、いわゆる原価率の問題に苦慮していると思われる。
大前提として当たり前の話になるが、いいものを安く仕入れ提供するということが一番なのである。
そして、『良いものを安く』というのは、旬の物という形で和食では表現されている。
作物や魚には、一番おいしく食べられる時期、収穫できる時期というのが決まっており、その時期のものが一番おいしく、市場に多く出回るため価格も安価なのである。
当たり前のことのようだが、進歩した日本の現在では価格は違えど一年を通じて手に入るものが多いため見失われがちである。
不易流行という言葉がある。
流行があるが、それとは別に変らずにいなければいけないものがあり、それを守ってこそ貫いてこその文化であり、長く反映するためのポイントなのである。
もう一度、自分の旅館の料理を見直し、本当にこれが正解か考えてほしい。
流行は必ず次の流行によって変化する。
それは、いつの世も繰り返しなのだからと私は思う。
| 2013年09月11日|
2013年のお盆シーズン、国内旅行需要はキャリアベースで軒並み昨年を上回る結果だということを耳にした。
観光業界にとっては嬉しいニュースで、前途洋洋であると言えるのではないか。
しかし、そんな中ホテル旅館業には今後の大きな問題があるということを今回はあえて触れていきたい。
ご存じのとおり、『耐震改修促進法』についてである。
釈迦に説法かも知れないが、この法律はホテル旅館に限って言えば、一定の規模以上のホテル旅館は2015年末までに耐震診断を受けることを義務化する法律であり、その結果は公表されるとともに、受けなかった場合100万円以下の罰金が科されるとのことである。
地震大国日本において、大地震に備えての建物の耐震化が急務ということであるが、問題はその費用面についてである。
まず、発生する費用として診断料がある。
耐震診断を受けることを義務付けてはいるが、この費用も決して小さい出費ではない。
しかし、この費用は施設側の負担ということになっている。
また、もし基準を満たせない場合は耐震補強の工事が必要となる。
この法律が適用されるホテル旅館は一定以上の規模を持っていることより、必要な設備投資額は膨大なものになり、場合によっては数億円と下らない。
この費用はどうやって工面すればいいのかということが問題になっている。
直近まで施行されていた中小企業金融円滑化法は借入超過による返済によって経営が圧迫されている中小企業への策として実施されており、ホテル旅館はもちろん日本中で多くの企業がその法律の恩恵を受けたが、完全に潤沢な経営が行えるまでに回復したかと言えば、それはごく一部であり、まだまだ苦しい状況が続いているところが多い。
そんな中で安心・安全のためということは十分理解できるのだが、大規模な設備投資を行う余裕がないというのが本音ではないだろうか。
そして、もう一つの大きな問題は風評の問題である。
この耐震診断結果は公表されるのである。
そのため、診断を行わなかった場合の罰金100万円以下はもとより、診断を行った上で設備投資までの資金の余裕がない場合は『耐震不足』として公表されてしまうのである。
そこで起こる宿泊客離れは予測できないほどに大きなものになるのではないだろうか。
もちろん、このたびの『耐震改修促進法』は安心・安全という観点に立った場合、利用者の立場に立った場合、必要な法律であると考える。
しかし、費用面の考慮もなく、しいてはこれにより大きく経営を御圧迫してしまうのは、本末転倒のような気がしている。
現在各経済団体よりこの法律への考慮、熟慮を求める運動をしているとの話も聞いているが、明るい日本、そして国内旅行需要の気運に水を差すことの無いように政府には慎重な熟慮を求める。
次回はこの問題への取組み等について触れていきたい。
| 2013年08月21日|
先週号で、ホスピタリティを行うには、お客様を感動させること。
そして、そのためには、お客様の情報を集め、管理することが重要であると申し上げた。
そして、自分だけは特別なことをしてもらっているという感覚が非常に喜ばれるのである。
しかし、それが難しいのは現実である。
実際にお客様の情報をたくさん集め、それに対応するとなると、少なくとも初めてお会いしてからいくばくかの時間が経過したのちになってしまう。
ここで重要なことは、第一印象の問題である。
この場合の第一印象とは初めて貴ホテル・旅館に来た時のことだが、情報が少ない中でいかに感動するようなおもてなしができるかであり、そのための方法として2つ取り上げて紹介したい。
1つ目は、予約時の対応である。
予約の際に、お客様から、どのくらいの情報を引き出せるかということである。
このためには、まず電話予約時の対応をある程度会話マニュアルみたいのを作る必要がある。
もちろん、長話になってしまうと、そこで印象を損ねてしまう可能性があるので、短く、かつ必要な情報を確実に引き出せるような、マニュアルを作り、一般化することである。
また、やや手間が増えるが、インターネットでの予約の申し込みの場合も出来るならば、ホームページの申し込みフォーム欄に様々なアンケート形式の予約ページを作ることも策として良いと思う。
2つ目は、小さな創意・工夫の積み重ねである。
直接、個人のお客様の情報を知らなくても、様々なタイプのお客様に対応できるような、多くの創意・工夫を用意しておく。
例えば、通路等にある生花、館内に立ち込めるお香のいい香り、そっと部屋に戻ると置いてある夜食など、小さな心配りである。
これらのことは、1つや2つの創意・工夫だと、すぐに近隣の、いや隣の旅館が真似してしまう。
しかし、これらのおもてなしのための創意工夫が100個、200個、500個となるうちに、隣もまねできなくなる。
それが、第一印象から好印象を与え、他宿泊施設との差別化へつなげ、ホスピタリティを叶えるための施策と言える。
始めから、ホスピタリティを実施することは、なかなか厳しく、徐々に段階が上がっていくものだと考えている。
第一印象で好印象を与え、2回3回と選んでもらえるホテル・旅館にならなければ、ホスピタリティを実施することは難しくなるのである。
そのため、第一印象の段階で好印象にするために、初めてのお客様との接触である予約時にいかに多くの情報を引き出せるか、そして、小さな創意・工夫を積み重ねて行けるのかということが重要であり、その一つ一つを全スタッフが認知、意識し、少しずつ少しずつ積み重ねていくこと、いつも以上にお客様とスタッフが向き合うこと、それが始めの一歩ではないだろうか。
| 2013年08月15日|
外国に輸出すべき日本のものといって挙げられるものと考えたときに、もちろん様々なものがあるが、その中に最近では『おもてなし』という答えが多い。
そのおもてなしの日本の最たる産業が宿泊業であると以前書かせていただいた。
そして、最近では、接客サービスを行う業種をホスピタリティ産業と呼び、サービスよりさらに上の段階にホスピタリティがあると位置づけ、ホスピタリティセミナーなど盛んに取り組んでいる。
ここで今一度考えてみたい。
ホスピタリティとはどのようなものなのか。
一般的に「思いやり」、「おもてなし」という意味で使わる。
また、人に不快な思いを与えないための最低限を『マナー』、主従関係があり、主の満足度を高めるために心配りをすることを『サービス』、そして、対価等を求めるのではなく、心を込めて、お客が何を望んでいるのかを真剣に向かい合い、その望む要望を超えるものを『ホスピタリティ』という。
順番から言えば、マナーの上にサービスがあり、サービスをさらに超えたところにホスピタリティがあるということなのだが、何とも抽象的で、では実際に現場で具体的に何を行えばよいのかということになる。
ホスピタリティを具体的にと考えた場合、私は、『お客様に感動を与える』ことだと定義している。
そこで、感動を与えるためにはどのようにしたらよいのかを考えれば、それがホスピタリティになるのではないかと考える。
そして、仕事ではない部分において、多くの人が実践しているのではないだろうか。
例えば、プロポーズをする時や誰かのためのお祝を催すとき、その人に喜んでもらうために様々な趣向や工夫をした経験があるのではないだろうか。
それこそがホスピタリティなのではないかと思う。
ホスピタリティは難しいようだが、実は誰もが実践で経験しているのだ。
では、それを仕事で活かすためには、ホスピタリティを実践するところに話をうつす。
現場で、様々なお客様がいる中、マニュアルだけの対応ではホスピタリティまで行き着かないのが実際である。
この人だけの為にを実践してこそのホスピタリティなのだから。
そこで、何が必要か。
それは、そのお客様個人個人の『情報』である。
いつから当館に来ているお客様なのか、どんな趣向をお持ちなのか、食べ物の好き嫌いは、人生の来歴はなどなど、様々な情報を持つことによって、より個人的で感動を与えられるホスピタリティを提供できるのだはないだろうか。
ホスピタリティを実現するための第一歩として、従業員教育もさることながら、お客様の情報をしっかり蓄積し、管理する体制を構築することが必要なのだと考える。
| 2013年08月15日|