第403回 番外編 メキシコの話

 今回は番外編で、先日の話を書きたい。

 先日、とあることからニューヨークに一週間ほど言ってきたときに聞いた話である。

 メキシコ第3の都市、プエブラという町がある。

 産業の中心は自動車産業で、特にフォルクスワーゲンの工場があることで知られている町である。

 日本向けのフォルクスワーゲンはほぼこのメキシコのプエブラで作られている。

 そんな都市、プエブラは日本とのかかわりは決して多くないのだが、今この町では空前の日本ブームが起こりつつある。

 それは、『気を遣う』ということだということだ。

 実はプエブラは街として世界遺産に認定されている。

 そのため、今後の方向として工業部門はもちろんのこと、観光客を集めるということに産業の向上を画策しており、そのために日本式の接客、いわゆる『気を遣う』を広く浸透させようとしているのである。

 例えば、店で買い物をする際、両手でお釣りを渡すのは日本だけであったり、道端ですれ違った人に対して、挨拶はできなくても日本人は必ず目が合えば、笑顔でにこっと会釈をする、また、きちんと順番通りに列に並び、電車等では、降りる人が優先で、列が一度左右に分かれる。

 日本では当たり前にマナーとして広く浸透していることが、海外では、不思議に思われているのである。

 このことをサービス業に従事する人はもちろん、街と全体として徹底させ、浸透させ、どの国の観光客が来ても、プエブラの人は気持ち良い対応をしてくれるという街にしていきたいとのことだ。

 プレブラでは工場の品質管理の標準の中にこの日本式『気を遣う』を取り入れていく方向だという。

 これこそが日本の最たる宝であり、諸外国が見本とするところなのである。

 さて、では当該国日本ではどうであろう。

 自分の国のことに目を向けて考えてみた場合、ホテル・旅館業はもちろん接客マナーに力を入れているだろうが、他はどうであろうか。

 自分の街に旅行に来たお客が旅館では素晴らしい接客を受けたが、飲食店ではあまり良い気持ちになれなかった。

 お土産屋ではそっけない態度であった。

 交通機関の人が話しかけても無視された。

 そんな話をよく聞く。

 そんな街に、いくら旅館の接客がすごくてもまた来たいと思うだろうか。

 友だちに自慢するだろうか。

 日本の裏側である、メキシコのプレブラの取組みは自国を誇りに思うと同時に、胸が痛くなるような話であると感じた。

 この場では何度も申し上げたが、今一度、おもてなし・気を遣うということをもう一度考え、観光客を受け入れるためにはと自分だけではなく地域全体で取り組む必要があると、メキシコに教わった気がする。

第402回 相手を知り、己を知れば 金融機関との交渉 ③

 前回、前々回と、企業が金融機関と交渉するのには、相手をよく知ること、具体的には、借入金がある場合、金融機関は、それ相応の引当金を積まなければいけない、そして、その引当金の割合は債務者区分によって決まっているということをお話しした。

 つまりは、金融機関との交渉をスムーズに進行させるには、相手のリスクをも考慮し和らげる配慮、今回でいえば、引当金の額を抑えることがポイントとなる。

 そして、そのためには評価をあげて債務者区分を上げることが重要なのである。

 しかし、債務者区分のその大部分は決算書提出による数字での評価が強い。

 概ね決算書の数字できまってしまうため、決算書の数字が悪い場合は、どうしても債務者区分は低く評価されてしまう。

 そんな中評価を上げるにはどのようにしたらよいのかを今回は触れていきたい。

 まず、わずかだが、評価に影響するといわれていることが数字上ではわからない部分になる。

 例えば、企業の経営方針や販路、歴史や地元での雇用状況、経営者の資質や事業承継などがある。

 そして、ここで重要となるのが将来の計画である。

 この部分をいかにアピールできるかが重要となってくる。

 もちろん出入りの担当者には話すことだが、評価を審査する担当者までその情報が伝わるのかどうかは、話だけでは難しい。

 そのため、しっかりとその情報を書面、具体的には経営計画を策定し、現状を分析し、将来へ向けてこのように改善していくといった計画、そして、計画に基づいた返済計画をしっかり示すことが重要なのだ。

 そして、経営者本人の誠意も重要といえる。

 多くの中小企業の場合オーナー経営者が多く、例えば企業は苦労しているが、そんな中経営者はしっかりと役員報酬を取り、個人資産も十分にあるなどといったケースの場合、あまり評価はされない。

 もちろん、経営者にも個人の生活があるので、何から何までというわけではないが、金融機関へ向けて、誠意を示す、または経営責任の一部を果たすといった意味でも重要になってくる。

 最後に、最も重要なことは、上記のような数字に表れない努力をしっかりと周知し認知してもらうための方策を打つこと。

 具体的には、決算書を金融機関へ提出する際、その中に経営計画書をしっかり盛り込み、将来ビジョンからそれに基づく返済計画まで示すことである。

 そして、定期的に経営計画との誤差を確認し修正し報告するといったように誠意を示す。

 これにより、金融機関の印象もかわり、評価にも影響が出ると言われている。

 これにより、資金調達を有利に進められるかもしれない。

 次回は、今回の発展編として、金融支援による企業再生方法について触れていきたい。

第401回 相手を知り、己を知れば 金融機関との交渉 ②

 金融機関の立場を理解して、相手のことも考え、交渉しようということで、前回は企業の借入の際に金融機関側では引当金を積まなければいけないという話をした。

 そして、今回は、その引当金の基準となる債務者区分、いわゆる企業の格付けについて触れていきたいと思う。

 金融機関の引当金の割合は、この債務者区分によって変わってくる。

 その割合は金融機関によってまちまちではあるものの、その評価方法はほぼ決められている。

 それは、金融庁が決めた『金融検査マニュアル』に基づいて行われ、そして、その評価のほとんどが決算書によって行われる。

 その評価方法の一部を、評価の順に従って紹介していきたい。

 まず、評価の第一段階において、決算書に基づく定量分析が行われる。

 いわゆる数字での判断である。

 例えば、自己資本比率といった安全性についてや、経常利益増加率といった成長性、債務償還年数などの債務返済能力について分析が行われる。

 この第一段階において、概ねの債務者区分が決定する。

 その後、数字の上には表れない第二段階において、経営者の資質、技術力や販売力といった部分が分析され、そして第三段階で返済能力、そして経営責任能力としてオーナーの資産力や過去の返済実績などが分析され最終的な債務者区分につながっていく。

 しかし、前述のとおり、多くの場合は決算書による数字の分析で概ね決まってしまい、その後の段階で債務者区分が大きく変わるということは稀なケースと言えるであろう。

 ただ、稀なケースとはいえ、決算書の数字のみで判断されるには厳しい場合、この第二・第三段階の判断を大きく加算してもらう現実がある。

 そのための工夫と対策が必要になる。

 それは、決算書をそのまま提出するのではなく、もちろん、利益を水増しするなどの粉飾や、法を犯すことを行うのではなく、数字上に表れない部分を、評価の第二・第三段階で大きく加味してもらえるようにする金融機関側に伝えること、そして理解してもらうことである。

 その具体的な方法の一つとして、経営計画の策定などがある。

 次回は金融機関の評価を上げるにはどのようにしたらよいのか、その経営計画も含めその具体的な手法についていくつか取り上げていきたい。

第400回 相手を知り、己を知れば 金融機関との交渉 ①

 『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』という言葉がある。

 中国の春秋時代の兵法家、孫子の言葉である。

 これを今のビジネスに置き換えることができるのではないだろうか。

 敵というわけではないが、相手のことをよく知ることよりはじめてみることが、経営の大切な要因と考える、現代の言葉にすると、『相手を知り、己を知れば、ビジネスがうまくいく』と言ったところでしょうか。

 第一回は金融機関について考えてみたいと思う。

 ホテル・旅館業には設備投資はついて回る問題である。

 一定以上の生産やサービスの提供のためには、巨大な装置や十分な設備が必要で、成果や収益のためには新しい設備が必要であり、メンテナンスや修繕も含めると、常に大きな投資がついて回るいわゆる装置産業である。

 そのため、金融機関との良好な関係は業界にとって必ず欠かせないのである。

 そして、繰り返しになるが、金融円滑化法のため、多くのホテル・旅館がその法律の適用をうけ、条件変更をしてきた。

 その法律の終了が目下3月末に迫ってきており、法律の適用を受けている企業は金融機関との交渉に入っているのである。

 円滑化法の適用側、今回でいえばホテル・旅館側のメリットはすでにご存じだと思うが、円滑化法終了後の金融機関側からの見方を考えてみたいと思う。

 まず、考えなければいけないのが「貸倒引当金」についてである。

 金融機関は債権に対し、貸倒引当金を積む必要がある。

 その金額は、債権先の企業の格付けによって、正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先などとなっており、それぞれの分類において何%というように決まっている。

 もちろん金融機関にとってその引当率はまちまちではある。

 例えば、破綻懸念先の企業に1億円の債権がある場合、だいたい5000万円から7000万円の引当金を積んでいるのである。

 この負担はかなり大きいと言える。

 じつは円滑化法対応中に関してはこの引当金の基準が緩和されていたのである。

 そのため、円滑化法終了後は金融機関としては引当金をどのように積むかが大きな問題の一つになっている。

 金融機関は、債権に引当金を積まなければいけない。

 当たり前なのかも知れないが、このことを理解し、相手の立場に立って課題を克服する策を考えることが必要なのである。

 そこで、大切なのが金融機関の格付けについてである。

 引当金の額を抑えるには、格付けの基準を挙げることも方法として大切なのである。

 次回は格付けについて考えていきたい。

第399回 金融円滑化法とその後について④

 経営計画作成するとき、陥りがちな失敗・落とし穴がいくつかある。

 一言でいえば、『現実味を帯びていない絵に描いた餅』なのであるが、その点をいくつか紹介していきたい。

 まず第一に、計画・戦略の確認である。

 経営者にしっかりとヒアリングを行った上で経営計画を作成するため、経営者の思いが強く反映され、それにより、会社の目指すべき姿がはっきりしてくる。

 しかし、その思いが、単なる思いつきなのか、その場のひらめきなのかをしっかり見極め、客観的に判断しなければならない。

 そして、第二に『数字』の問題である。

 経営計画の母体となるのは、現状の会社の状況をしっかりと数字で把握することである。

 その数字を基に、売上計画を作成したり、経費の削減・節約計画を作成したりを行う。

 しかしこの計画が、実際の現場と大きくかけ離れてしまっているケースがある。

 その場合、「元々の設定の数字に無理がある」や、「計画自体が理不尽」といったことになり、計画未達成が連続してしまう。

 これでは、せっかく計画を作成しても意味をなさなくなってしまう。

 そのため、数字上の計算ももちろん必要だが、その数字が現実味を帯びているのか、しっかりとした根拠があるのか、を見極め数字が独り歩きしないように注意する必要がある。

 第3に、作成している計画が、業種・業態・環境に適しているのかどうかである。

 ホテル・旅館業界にももちろんのこと、業種や業態、環境によってさまざまなケースが存在している。

 しかし、経営計画を作成する際に、一般的な手法にとらわれ作成してしまう場合がある。

 これでは、現実と大きくかけ離れてしまう。

 例えば、一般的な手法にとらわれ作成してしまったが故に、宿泊客がチェックアウト時に、売店に担当がおらずに、結果として売上が減ってしまったと言った話があった。

 そのため、一般的な手法はベースとしながらも、その業種・業態・環境に適しているのかどうか作成のポイントとなる。

 そして、最後に、作成した計画を共有・活用できないという問題がある。

 経営者の思い、業種に適した数字目標を定めても、実際に現場で行う管理職や従業員と計画を共有できなければ、計画として動き出さないのである。

 そのため、作成する計画は作成段階で、会社の従業員の状況をきちんと把握し、周知、徹底させることが大切となる。

 それにはまず、経営者が従業員の、従業員が経営者の、それぞれの立場や思いをお互いに共有し、歩める社内体制、雰囲気づくりがポイントとなってくる。

 いずれにせよ、円滑化法終了後の来るべき時代の中で、経営の発展・安定のためにはしっかりとした経営計画の作成は必須と考える。

 しかし、くりかえしになるが、その計画が現実味を帯びていない絵に描いた餅にならないよう、注意する必要がある。