様々な旅館さんへお邪魔させていただく中で、自分のところのホテル・旅館のことを本当にしっかり知っているのかと思うことがある。
ここは、経営戦略を立てる上でまずスタートになる部分である。
今回はその中からいくつか簡単に考えられるものを取り上げていきたいと思う。
まず、第一弾として、“客層”についてである。
自身のホテル・旅館のターゲット客層ははっきりしているだろうか。
これが経営戦略、または営業戦略を立てる上で重要なカギをもつ。
たとえば、料理についてである。
こんな話があった、ある旅館では、宿泊単価をあげるために夕食の食材の質を上げた。
それでも単価としてインパクトに欠けたので、もう2品増やし、高級本格懐石料理を提供するようになった。
モニタリングをしたところ、評判は上々で、意気揚々と主力商品に持って行ったのだが、いざ販売すると、評判は今一つであった。
そこで宿泊客アンケートを実施したところ、料理への不満が数多く寄せられてきた。
その内容は【量】についてそして【郷土色】についてであった。
その旅館は、山の中の高級旅館として営業していており、宿泊する客の多くは、富裕層、そして比較的高齢なご夫婦が多く、そして住まいは首都圏の客であった。
その客層に対して、今回の戦略はマッチしていなかったのである。
まず、1点目として年齢層から考える。
この旅館の主要客層である高齢のお客様はむしろ量を食べないのである。
確かに、料理の単価を上げるためには品数を増やすことが一番の近道ではあるが、この客層は量よりも質を望む客層である。
そのため、食べきれない、量が多すぎるといった意見が多く寄せられたのだ。
そして、2点目が首都圏からの客層であるという点である。
この旅館、料理単価を上げるために、山の中なのにも関わらず、伊勢海老、アワビといった高級食材を献立に加えたのだが、宿泊客からは、なぜ山の中の旅館で海の幸なのかといった意見が多く寄せられた。
献立にストーリが無いのである。
正直、ちょっとした高級食材は首都圏であればどこでも食べられる。
この客層が求めるものは、高級であるより、献立に物語のあるもの、地元ならではのものなのである。
今回の例は極端な例なのかもしれないが、自身の旅館はどんな客層に好まれているのか、そして、その客層のニーズに本当に適したものが提供できているのか。
今一度再考してみる必要はあると思う。
| 2012年10月17日|
今の若い人は、中々旅館に泊まりにいかない。
何でいかないのかを考える機会があった。
旅館にはあまり行った経験がない若い人たちだから、時にはチンプンカンプンで、およそ場違いな意見が出てくる。
でもだからこそ、既成概念にとらわれない、ユニークな発想になることがある。
今回はそんな意見を紹介したい。
題して「旅館に、あったらいいね!サービスである。
*24時間コンビニエンスストア
~人的サービスが無理なら、24時間自販機コーナー。旅館の冷蔵庫は高すぎると思っている人が多い中、自己防衛と称して持ち込みが目に余る。それなら、せめて…ということか、dwも便利かも。
*託児所
~ファミリーは楽しい。でも少しはご夫婦、二人だけの時間を持ちたいね。
*おしゃれな自分だけのアメニティグッズ
~持ち帰り用化粧セット、ちょいと高級。これも今日のメモリアル。帰宅後も、○○旅館さん、ありがとう!また行こうね。
*自分専用のスリッパ
~衛生上の問題を気にせずに、私だけで使えるスリッパ。もちろんお持ち帰りOK。これもメモリアル。
*客室で香広がる本物のコーヒーを
~客室に1台、家庭用カプセル式コーヒーメーカーを。インスタントでないコーヒーが飲めて、ラッキー。
*堂々とした、喫煙コーナー
~禁煙者から文句が出ない、逆転の発想で、完璧なデラックス愛煙空間を!
*ちょっと高くても…エステティックサロン
~ヤングレディにはもはや必需品。エステ効果に温泉効果、相乗効果でリラクゼーション!これで垢すりあったら韓国行かない!
*香
~お香、アロマテラピー、とにかく陰気な、かび臭い悪臭はたまりません。毎日中にいる旅館の人、臭い慣れじゃないですか?
*喫茶コーナーのポイント
~とびっきり美味しいケーキ、おしゃれで、かわいいスィーツが、何で旅館にあってはいけないの?
*お帰りにどうぞ、○○旅館のお弁当
~チェックアウト後のツアーに、ありがたい配慮ですね。もちろん有料でも、うれしいかもです。
ヤングレディ&ママ、言いたい放題だが、そう、簡単に無視ばかりでは、いけないかもしれない。
| 2012年10月17日|
100-1はいくつだろう。
普通に考えれば、誰もが99と答える。
それが当たり前ではあるが、サービス業においてはその通りではない、特にホテル・旅館業は。
2つほど実際に起こった話を書きたい。
1つは旅館業での話である。
女性二人組が東北のある旅館へ宿泊した。
その旅館はサービスに重きを置いており、接客係はもちろん、フロント、清掃スタッフに至るまで、挨拶等は徹底しており、その女性客はとても気分良く過ごせた。
料理もこだわっており、地のものを活かし大変満足した。
チェックアウト時には、接客係はもちろん、女将もお客様のお見送りに出ており、帰りも気持ちよく旅館を後にした。
しかし、問題は駐車場の担当係にあった。
旅館を後にした2人は、やや離れたところにある旅館の駐車場に車を取りに行った。
そこで、駐車場担当のスタッフが喫煙をしており、その吸殻を道端に捨てた、ポイ捨てをということである。その女性客は非常に腹が立ちそのスタッフにポイ捨てをしないように注意したということだが。
ここで、考えてみてほしいのは、その女性客は再びリピータとしてこの旅館に泊まろうと思うだろうか。
答えは否だと思う。旅館が一生懸命に誠心誠意を込めてお客様をおもてなし、調理長が丹精込めて食事を用意し、お客様のために真心込めたにもかかわらず、駐車場係のなんでもない行動ひとつですべて台無しになってしまったのである。
次に寿司屋の話である。
ある有名すし店に見習いとして就職した青年がいた。その青年は見習い期間中、毎日毎日、かっぱ巻きを作っていた。
多い日は、1日中何百本もかっぱ巻きを作っていた。そんなある日、出前先のお客から一本のクレームをもらった。かっぱ巻きにキュウリが入っていなかったということだ。
それに対して、寿司屋の主人は見習いを怒った。
すると見習いの青年は、今まで何千本とかっぱ巻きを作ってきた、1本だけでそんなに怒られるのは納得がいかないと反論した。
すると主人が、お前からすれば1000本のうちの1本かもしれないが、お客様にしてみればその1本がうちのかっぱ巻きのすべてになると。
この2つのエピソードより、100-1はサービス業においては99ではなく、場合によっては“0”になってしまうということが言える。
難しいことだが、サービス、ホスピタリティを高めるのであれば、お客様に係るすべての人間が、自分の都合ではなく、相手の立場に立って考えることをしなければならないのである。
| 2012年10月17日|
これは会津のある旅館での、実際の話である。
東京からのお客様の夕食時に、会津の名産「身欠きニシン」をお出しした。
身欠きニシンとは、ニシンの干物のことで小骨の食感とほろ苦さが特徴である。
が、何ともお客様に評判が悪い。
旅行エージェントの添乗員から「女将、何とかしろ」と言われ、女将が一言挨拶することとなった。
…「会津は昔から山間の貧しい土地です。身欠きニシンは、貴重な淡白源の保存食として、会津の家々で大切に作ってきた郷土食です。大事なお客様がみえた時だけお出しした、会津人の、精一杯のおもてなしの心です。どうか。ご賞味くださいませ」
…「なるほど、食べてみるとおいしいよ」
…一人、また一人とニシンに箸がつき初め、身欠きニシンは見事完食、翌朝の売店でも、お土産で売り切れたと言う落ちがついた。
ここで注目すべきは、「身欠きニシン」の味ではない。
もちろん、味もさることながらだが、完食されたり、売店で売切れたりした一番の原因は「心」である。
女将をはじめ、その旅館が東京から来ていただいたお客様に対して、精一杯の真心をこめた一品、もちろん女将の挨拶も相まって、それがお客の心を打ったのだ。
この心を打つおもてなしの心は実は昔から日本にあったものである。
何年か前の公共広告機構のCMであったが、それは「おもいやり」や「こころづかい」と名前を変え目に見えるものとして存在していた。
最近では、ホスピタリティと呼ばれたりもしている。
このおもてなしは何から始まるのか。
最近、無駄をなくすという号令の基、効率化が進めている企業は多い。
もちろん大切なことではあるが、この無駄をなくすといった場面ではおもてなしの心は非常に見えづらく、一見するとはじかれてしまう対象になっている。
しかし、すこし立ち止まって考えてみる。
そして、大切なことは、相手の立場に立つこと、そして、相手が嫌悪感を持つようなことはしない、相手を喜ばせるためにはどのようにしたらいいかを考える。
そこから始めることができるのである。
現に、みんな自分の恋人や家族のためには、できていることだと思う。
会津の旅館の「身欠きニシン」のような例はどこのホテル・旅館にも存在する。
それを手間を惜しまず、提供する心、そんなおもてなしの心を見つけてみるのはいかがだろうか。
| 2012年10月17日|
有名な話だが、ほんの数年前、日本でも名の通ったなホテルで大変残念な事故があった。
宿泊客の高齢の男性が、夕食中にステーキをのどに詰まらせそのまま亡くなってしまった。
実はこのホテル、皮肉なことに全館バリアフリーになっており、館内には多く手すりを設置、AEDもいち早くそろえるなど、福祉の分野に積極的に取り組んでいたのだが、いざ事故が起こった時、救急車到着までの7分間、誰も何もできなかった。
結局、みんなおどおど周りでしていただけなのだ。
これは、なんとも残念な事故であった。
この事故に見えるように、福祉を考えた場合、ハード面からの設備投資は当然必要なことではあるが、お金も時間もかかってしまう。
ましてや、ホテル・旅館業の中には構造的にバリアフリーへの改築が難しい施設などもある。
ではソフト面はどうであろうか、前述の事故の際、従業員の誰かがのどに詰まらせた場合の対処法を知っていれば不幸な事故にはならなかったのかもしれない。
大切なのは、看護士までとは当然いかなくても、何かあった際の対処法を従業員が身につけているというと、それを実践できるということではないだろうか。
こちらのソフト面での対応はハード面に比べ費用も時間も少なくて対応できる。
簡単に言いかえれば、車いすの宿泊客の方が来た際、段差があるホテルでも従業員が車いすの対処方法を心得ており、宿泊客が何不自由なく過ごせる、それでいいのである。
実はこのソフト面での福祉への取組はサービス業界ではさまざまにあり、民間資格もある。
タクシー業界や百貨店業界などは積極的に取り組んでおり、各言う当社にも『接客士』という民間資格を作り接客のプロの認定事業を行っている。
しかし、もっとも大切なことは、そこに携わる気持ちなのではないだろうか。
バリアフリーにする、従業員が知識を身につける。
当然必要なことだが、そこに携わる人間が、何のためにするのかが分からなければ意味がなくなってしまう。
私はこの部分、携わる人の意識、気持ちといった部分が接客、特に『おもてなし』と言われる部分で根幹となる部分であると考えている。
そこで、今回より具体的な事例を挙げながら、接客、『おもてなし』といったものについて書いていく。
| 2012年10月17日|