第378回 営業戦略の構築のために~管理会計~④

 釈迦に説法の話だが、企業が利益を伸ばす方法は大きく2つしかない。

 ①売り上げを伸ばす。

 ②経費を下げる。

 この2つしかないのだ。

 当然、売り上げを伸ばす方法の方が利益に与えるインパクトは大きいのだが、一方で経費の部分も同時に見ていかなければならない。

 特に変動費と呼ばれる、売上に比例して増えていく経費を以下に抑えるかが、利益を生み出すポイントとなり、その大部分を占めるのが仕入ということになる。

 実はこの仕入が見直してみることによって意外に大きなインパクトを生み出すのである。

 ホテル・旅館業において大きな仕入は食材に係る部分である。

 この食材に係る部分は、それぞれに長くお取引を続けている業者がいて、その業者に一任している場合が多いのではないであろうか。

 当社では『アンケートネット』というものを行っており、そこで仕入の価格調査を行っているが、その調査ではもちろん地域制もあるのだが仕入の値段が大きく違うことがある。

 例えば、パン粉を例にとって考えてみたいパン粉は揚げ物に使うため実はかなりの数ホテル・旅館では消費するのだが、業務用のパン粉500グラムの価格を調べたところ2009年の調査で、平均して約385円だが、最高額は585円、最低額は289円と結果は倍以上にもなった。

 もちろん、パン粉の質にもよるだろうが、この差は大きいのではないだろうか。

 このように、今まで当たり前にその仕入価格だと思っていたものが、他方と比べてみると大きく差が出ることがある。

 これが、仕入全部とまではいかないが、1品1品検証し、見直しを行ってみると大きなインパクトを生むことになる。

 ここで難しいのが取引業者との関係である。

 長年のお付き合いがあるケースはなかなか見直すことが難しいのも実情である。

 しかしながら、会社のためにここはしっかりと見極め、1品1品、1社1社検証していくことが明日への糧となっていくのである。

 単純比較はできないが、我々の経験では2割のコスト削減に成功したケースもあるくらいである。

 売上を2割増やすことに比べ、仕入を見直すことが近道であると言える。

 繰り返しになるが、仕入の検証すること、これは旅館経営再生の大きな肝であると我々は考えている。

 無駄を削減し質を下げずに徹底的にコストを見直す。

 まず、実践してみる価値はあると考える。

第377回 営業戦略の構築のために~管理会計~③

 そもそも管理会計はなぜ行うのか。

 それは前回も記述したが、「過去」「現在」を数字でしっかりとらえ「未来・将来」を計画するためにとされており、その起源は20世紀半ばのアメリカから始まり、日本でも1960年代に活発に行われるようになった。

 その基本となったのが、原価計算に基づくものである。

 もちろん原価計算は主に製造業に使われている場合が多いが、ホテル・旅館業でもこの原価計算は欠くことができない数字である、特に料理の部分において。

 そこで今回の管理会計では料理原価(飲料含む)について述べていきたいと思う。

 一般的に原価計算で使われる、原価率は対売上で計算されるが、ホテル・旅館の場合、料理原価を計算するときに、対売上で行ってしまっては数字がより信憑性のあるものでなくなってしまう。

 なぜなら、前回書いたが、ホテル・旅館業では、宿泊等の主体売上と、売店等の付帯売上とあるからである。

 当然この場合計算に使うのは、食事が含まれる主体売上の数字をもとに計算する。

 国際観光旅館連盟の調査によると、料理原価は平均で20.3%となっている。

 もちろん、細かく見れば地域や規模によって多少は数字が変わるが、この数字はここ4年ほど大きな変化はなく同じほどの値で推移している。

 当然、この原価率を上げればより豪華な食事を提供し、下げれば節約しているということになるのだが、これがそのまま直接宿泊客の満足度とイコールかと思えば、あながちそうとも言い切れない。

 2つの数字から考えていきたい。

 まず、旅館の規模別の料理原価率を黒字旅館に限ってみていくことにする。

 その場合、30室以上の中規模、大規模旅館の平均は20.4%と全国とほとんど変わらない数字だが、客室数30室以下の小規模の場合、18.3%と全国より抑えた数字になっている。

 そして2つめに、赤字旅館をみてみると、料理原価は100室以上の大規模旅館でこそ18.7%と抑えているが、中規模・小規模な旅館の場合21.7%と平均よりも高い数字である。

 この2つの数字から考えるに、高い食材を使い料理を提供することがそのまま宿泊客の満足度につながるとは必ずしも言えないように思われる。

 ホテル・旅館業において料理は評判を左右する大きな指標になるが、ここで大事なことは、いかに工夫し食材の原価を下げつつ料理の質を落とさず、できれば高めるという当たり前のことにいきついてしまう。

 そしてそのためには見直すべきはまず『仕入』である。

 次回はこの『仕入』について考えていきたい。

第376回 営業戦略の構築のために~管理会計~②

 管理会計の具体的な指標として、第一回は売上に注目していきたい。

 夏休みでにぎわうホテル・旅館業にはこの時期様々な形で売上がある。

 それは、宿泊料金はもちろん、飲み物や土産物、マッサージなどその売上の種類は様々ある。

 ホテル・旅館の管理会計ではそれを大きく2つに分けて考え、一泊二食のような基本的な宿泊売上を『主体売上』、それ以外を『付帯売上』とする。

 この主体売上と付帯売上をきっちり分けることが旅館の戦略を立てるのに大きく役立つのである。

 ではまず、売り上げの根幹たる主体売上から考えていきたい。

 この主体売上をのばしていくことこそホテル・旅館業の最たるものではあるが、容易ではないのが実情。

 もちろん宿泊人数が現行の料金設定のまま増えれば単純に売り上げは上がっていくのだが、宿泊人数をあげるためにコストパフォーマンスにより、この主体売上の価格を下げていくことが多い。

 つまり、薄利多売の戦略を選択するケースが多い。

 これには世の中の情勢が色濃く影響する。

 また、では単価の上昇からのアプローチはどうか考えてみても、これも難しい。

 単価をベースとして売り上げを上げるためには、宿泊人数を減らさないことが重要になってくるが、単価の上昇ではどうしても宿泊人数の減少につながってしまうため非常に難しいと言える。

 そこで、考えられるのは付帯売上の上昇である。

 これは、夕食時の飲料を一本追加する、お土産を1品多く購入してもらうなどの方法が挙げられるが、この方法ならば接客係が、フロントが、売店のスタッフがさりげなく勧めることや、名物商品を作るなどによって大きく向上する可能がある。

 もっとも、付帯売上自体の割合が全体から見た場合に少ないのは言うまでもないが、例えば、エステの消費単価などは宿泊単価に匹敵するようなケースもあるので甚だ見逃すわけにもいかない。

 このようにホテル・旅館館内のスタッフが行う営業を館内営業と位置付ける。

 この館内営業に力をいれ、付帯売上を分析し、売店に新商品や人材を投入して売上を伸ばすこと、食事やその後に飲料が多く消費されるような仕組みや商品を開発することなど、付帯売上を高めていく。

 これもこれからホテル・旅館業が更なる発展するために必要な大きな戦略といえよう。

 そのためにしっかりと何による売上なのか。

 主体なのか付帯なのか、把握することが必要である。

第375回 営業戦略の構築のために~管理会計~

 夏休みに突入すると同時に、ロンドンオリンピックが開幕した。

 柔道より始まり、競泳、サッカー、体操と日本の活躍が目覚ましい中、こんな話を聞いた。夏休みに入ったにもかかわらず、例年は満室のこの時期に満室にならないというのである。

 もちろん、昨今の予約傾向が直前の予約が多い状況から鑑みると、その後すぐに満室になったのかもしれないが、この状況の要因の一つにロンドンオリンピックをあげている。

 つまり、夏休みに突入し、レジャーシーズンなのだが、ロンドンオリンピックの影響で、自宅で応援・観戦しこの時期外に出ないのである。

 もちろん、酷暑など他にもさまざまな要因があるであろうが、かつてサッカーワールドカップの時や、ワールドクラシックベースボールの時も同じような現象が起きている。

 しかしながら、ロンドンオリンピックを上手に組み入れている宿泊施設もある。

 その施設では、大きなテレビを食堂に設置し、宿泊客と一緒に観戦・応援するプランを考案し、この時期満室になっている。

 ここから導かれるように、あらかじめ想定できるものをしっかりと考慮し、対策を立て、それを営業に活かし売り上げをあげる。

 経営戦略をしっかり立てることが重要ということである。

 現に、ロンドンオリンピックをしっかりと想定していた宿泊施設はそれに沿ったプランを構築し、しっかりと売上に結びつけている。

 この経営戦略を立てる上で大きな指標となるものの一つに数字がある。

 昨年と対比すること、他の同規模宿泊施設と比べるなど様々な指標はあるが、今回ここでは、『管理会計』ということをあげていきたい。

 管理会計は戦略構築のために、未来のために行う会計のことである。

 宿泊施設には他の業種とは異なる会計になる部分がある。

 たとえばクーポンなどがその例にあたる。

 ここで、クーポンを例にとって管理会計から、営業戦略構築の流れを考えてみる。

 まず、クーポンの各業者別の値をしっかり把握する。

 これだけでも大きく違う。これにより、どの業者からの効率が良いかがはっきりし、この数字を前年と比較することにより傾向が表れる。

 さらには、直接営業とエージェントの比率、営業に投資すべきか否かなどが考えられる。

 次回より、この管理会計を具体的に考えていきたい。

第374回 内部の稼働率向上をする

 今回は業務内容の見直しについて考えたい。

 そんなことを云うとこれをお読みの皆さんは、「そんなことはとっくに取り組んでいるよ。」と思われるかも知れない。

 それぞれの部署でオペレーションマニュアルを作成し、従業員に渡し説明はしていると思う。

 しかし、それを統計的に数値化しマニュアルの実行効率を求めているところは少ないと思う。

 実行効率を高めることが人件費のコストダウンにつながる早道である。

 これは、実稼働率を上げることである。

 稼働率というと施設や部屋の稼働率を想像すると思うが、ここでは従業員さんの仕事の稼働率のことである。

 この考え方は、自動車の組立て生産ラインなどで実際に取り入れられている。

 全ての作業員の稼働時間と不稼働時間を数値化し、実稼働率向上を極限までに追い求めているのである。

 実稼働時間は、実際に手を動かし組立て作業をする時間のみを言い、部品を取ったり作業のための移動時間は含まれない。

 秒単位で作業分解し、徹底的に時間の短縮を目指しているのである。

 そのためには治具・道具・部品などを徹底的に作業員の近くに置き、手を伸ばす距離を最短にし、手で物を取る作業の時間ロスをより短くしたり、部品の供給も途切れることの無いよう専門の部品供給員を置き、無くなる寸前に供給する。

 トイレに行くのでさえラインを止めないように交代要員が手を上げた人の所に入り、交代をしてラインを動かし続ける。

 これを毎日繰り返す訳だから、何時に新しい部品を工場に納入する必要があるのかが把握できる。

 「カンバン方式」も可能になるわけである。

 では実際に旅館業やサービス業でそんなことが可能なのであろうか。

 製造業並みの稼働率向上は難しいであろう。

 それは、朝から晩まで同じ作業を一日繰り返す従業員がいないからである。

 しかし、各従業員さんの1日の仕事内容を分解し、できる作業から取り組めば可能になる。

 特に繰り返しの多い作業や、客室の清掃作業のように時間設定が可能な作業は実稼働率の向上ができる。

 一見難しそうな話ではあるが、従業員の実稼働率を高められれば、人員を他の作業に当てたり人員の削減につながり、人件費コストの低減につながるはずである。

 こんな発想で内部の稼働率を上げることを考えてみてはどうだろうか。